263.オレのせいじゃないもん(3)

「タカミヤ爺さん、そんなに凄い人だったんだ」


 同じ日本人の誼で付き合ってもらって悪かったかな。


「いえいえ、タカミヤとお呼びください」


「いやいや……じぃにしとく」


「じいやの方が好みですぞ」


 妙なやり取りだが、ここは時代劇知らないと分からないくだりだろう。オレとしては「じぃ」と呼ぶ大名家の坊ちゃん気分だった。「じいや」だと幼い頃から知ってるイメージだ。ばあやの反対語と考えると余計そんな気がするし、なんか明治頃の良家のご子息になっちゃう気がしない?


「うーん。じいやでいいか」


 あちこちからスカウト来る人だし、逃げられたら困る。


『主殿、どこまで破壊しても……』


「なぜ破壊すると思ったの」


『全員呼ぶからよ』


「皇帝陛下への謁見だし、断罪劇に当事者として参加したくない?」


『『『したい!』』』


「だろ?」


 ふふんと得意げな顔をしたオレに、聖獣達が近づいた。ヒジリは何やら変な顔をしたあと、いきなりオレに噛みついた。軽く骨砕くのやめてもらえますかね。普通は砕く物じゃないと思うけど。血が出た傷を癒しながら、ついでに治癒を施してくれたらしい。


「すっごい癪だけど、ありがとう」


 ヒジリの首に抱き着いてお礼を言っておく。ほんと、一般的な方法で直してほしいけどね。愚痴を漏らすと、ヒジリがキョトンとした顔で指摘した。


『主殿が言ったのであろう。キスは嫌だと』


「嫌だよ」


 キス以外で毒を消そうとしたから、唾液をオレの体に直接流した、と? ……ほかの方法を模索しよう。今後のオレのために。この世界で長く生きていく中で、ずっと獣ベロチューか噛まれるの二択しかないのは厳し過ぎた。


「皆様、皇帝陛下がお会いになるそうです」


「承知した」


 北の王太子シンが応じる。オレも顔を引き締めた。レイルはオレの斜め後ろの目立たない位置に陣取る。護衛のベルナルドと執事のじいやを連れて……出陣だ! と恰好を付けたところで、後ろから質問が飛んできた。


「ペッコラ侯爵領のこと、責められるぞ」


 対策を考えておけよ。そんなレイルの忠告に、オレはイイ笑顔で振り返った。


「なんのこと? オレのせいじゃないもん。知らないよ。どこかのバカが聖獣の怒りでも買ったんじゃない?」


「くくっ、いい度胸だ。それなら心配いらねえな」


「兄が守ってやるぞ」


 レイルとシンのお墨付きをもらい、オレは大きな扉の前に立つ。久しぶりの正装までしてやったんだ。それなりの抵抗をみせてくれよ? とろり蒟蒻と愉快な仲間たち――。

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