263.オレのせいじゃないもん(2)

 気取った足取りで進んだ先で、貴族達がさっと道を開ける。この辺は日和見を決め込んだ連中と、以前にオレがやらかした事件をよく知ってる奴らだ。問題なかった。叩きのめした伯爵のご令嬢が青ざめて逃げていくのを見送り、謁見に使う大広間へ向かった。


 ベルナルドが後ろで帯剣して付いてくるせいか、誰も余計な言葉をかけてこない。すたすたと広間の前まで行くと、すぐ近くの控室に通された。謁見を待つ貴族や、他国の使者が待つ部屋なんだけど……予想通りシンが待って、いや飛びついてきた。


「ぐぇ」


「心配したぞ! 我が国の王子に、なんという無礼なことをしてくれたのだ!! 宣戦布告……」


「したら、オレも敵に回すよ」


「……しません」


 しょんぼりしたシンの頭を撫でて、あまりの落ち込みぶりに苦笑いした。捕虜にした当初は凛とした指揮官っぽかったのに、こんなに懐かれるなんて。これはカミサマの悪戯か? 正直、上に兄弟がいるのは擽ったい気分だ。慣れなくて甘え方が分からない。


「心配してくれてありがとう、シン兄様」


 ここは弟であるオレが先に折れる場面だろう。ちょっとあざといかと思いながらも、媚を売っておく。ご機嫌で「心配するのは兄の特権だ」と頬ずりするシンを放置し、オレは聖獣全員集合を掛けた。


「ヒジリ、ブラウ、コウコ、スノー、マロン」


 部屋に残した子も、出掛けてる奴も全員呼びつける。足元からするすると出てきた青猫が黒豹に踏まれ、その上を滑るように赤蛇が移動し、飛び越えた白ドラゴンが一回転して着地する。最後にマロンが子供姿でよたよた出てきて、思わず手を貸した。また黒い穴に落ちそうなんだよ。


「ご苦労さん、全員集合してもらったのは……お待ちかねの断罪劇だっ!!」


「「おう」」


 聖獣より盛り上がる、シンとベルナルド。


「お待たせいたしました。本日はお供させていただきます」


 さりげなく部屋の隅で待機していたタカミヤ老人が加わる。


「彼はキヨの執事だと聞いたぞ」


 シンが本当かと問うので、大きく頷いて紹介がてら自慢した。王族や高位貴族の使用人は、代々仕えている者が多いそうだ。そのため、自分でハントしてくるのは珍しい。心配そうだったが、タカミヤが旅館の話をすると目を見開いた。


「あの……椿旅館のオーナーか! 泊ったことがある。にしても、さすがはキヨだ」


 何を褒められたのかと思えば、レイルが教えてくれた。


「椿旅館はその接客が有名で、各国の王侯貴族から引く手数多なんだ。そのオーナーを女中ごと引き抜くなんて、普通は無理だぞ」

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