08.遊びつかれた子供(5)

 油の切れたロボットみたいなぎこちない動きで、こわごわ振り向く。固定された頭と彼の身長の関係で、上目遣いで見上げる羽目になった。


「元気そうで何よりだ、キヨ」


 ジャックの手に力がこもる。


「ちょ……、痛いっ」


 抗議をしてみるが、手の力は緩みそうになかった。


 まあ、盛大に心配させた自覚はあるので我慢する――いや、無理無理。マジ痛い。


「無事でよかったが……」


 後ろにまだまだ大量の文章が残っていそうなノアの声に、必死で助けを求める。伸ばした手を掴んでくれるが、諦めろといい笑顔を返された。


 う、裏切り者……。


 意味不明のクレームを付けたところで、ようやくジャックが手を離してくれた。


 オレの頭が小さいのか、奴の手が大きいのか。判断に困るが、がっちり掴まれるくらいのサイズ差があった。


「うぅ……痛い」


「痛いで済んで良かったな。おまえを攫った奴は、奴隷商人の中でも性質が悪くて有名だったぞ」


 セキマさん……じゃなかった。レイルが呆れた口調で調査資料をジャックに差し出す。


 どうやらオレを拘束した男の情報らしい。紙じゃなく、半透明のシート状のカードだった。名刺くらいだが、あんな小さなカードにどれだけの情報が詰められるんだろう。


「見せて」


 子供らしい態度で強請れば、ジャックがぽんとカードを放った。右手を出すが受け取り損ね、カードは手にぶつかって床に落ちる。


「あれ? おかしいな」


 このくらい余裕で受け取れる筈なんだけど? 


 思いっきり首を傾げる。ちゃんと受け取れると思ったのだ。根拠は、こちらの世界へ来てからの運動神経の良さだった。


 投げられたのを軽く一回転して起き上がるとか、ちょっと以前のオレより数倍レベルで運動神経がUPしている。それなら飛んでくるカードくらい、片手で余裕で受け取れるのに?


「……キヨ、でしたか? あなた、左利きでしょう」


「え?」


 左利き? いつから?


 淡々と指摘するシフェル。盛大に顔に疑問を書いて、目を見開けば……呆れ顔のメンバーがしっかり頷いて肯定した。


 ジャック、サシャ、ライアン、シフェル、豊満な金髪お姉さん、レイル。ノアは真横にいるので視界に入らない。この異世界に来てから知り合った人が、ほとんどこの場にいた。


 なんでしょうか……。


 ――嫌な予感がします……。

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