08.遊びつかれた子供(4)

 目の前の柔らかいものにしがみ付く。顔を覆うが、少しだけ緩んだ。


「ん……」


「あら、起きた?」


 柔らかい声に驚いて顔を上げようとして、顔を押し付けていたモノの正体に気づいた。女性のふくよかな胸の谷間に顔を埋めている、らしい。


「もうちょっと大人しくしてなさい」


 ローズマリーに似たさわやかな香りと、過去も合わせた24年と少しの短い人生で縁のなかった柔らかな感触……うっとり目を閉じる。


 そう、名目は彼女の優しい声に従った……という形で身体の力を抜いた。



 うとうと…また眠りの腕に引き込まれていく。


 分かるだろうか。二度寝した朝の、身体が浮遊するみたいな快感……ふわふわして、気持ちよくて、手放したくない、短くも長く感じられるあの瞬間に似ていた。


 引き込まれる意識に『逆らう』なんて野暮な選択肢は存在しない。


 そんな幸せを野太い声が引き裂いた。


「おう! 小僧は起きたか?」


「……起きたけれど、また寝ちゃったわよ」


 もう少し寝かせて欲しい。この胸の持ち主が、たとえオバチャンでも構わなかった。


 綺麗なお姉さんなら最高だが、あまり高望みはしない。この世界に落とされた時点で……いや、その前の人生含めてもオレは外れクジばかりだった。


 髪を撫でる指先の心地よさに、ぎゅっと抱きつく。



「ほら、起きてください」


 丁寧な口調で、無理やり引き剥がされた。


 ぬくもりを求めて差し出した手が、胸のふくらみを掴んでしまう。


 驚いた顔のお姉さんは……大当たり。すっごい美人でした。しかも、金髪金瞳の白人系。前の世界なら抱き締められるどころか、近づいただけでパンチくらいそうな……モデル系美女です。


 ……ほんっと、ご馳走様でした。



「あ……ご、ごめんなさい」


 反射的に謝ったのは、胸を握ってしまった為だ。でも驚いたフリして離さないのは、故意である。離せと言われるまで手のひらで包んでいたい。


「いいのよ、気にしないで。シフェルも……そんな乱暴に扱っちゃダメよ」


 優しいお姉さんでよかった。まだ手に触れている膨らみの感触を堪能していると、あっさりシフェルに引き剥がされてしまう。


 なんだ? 子供相手に焼きもちか?


 すっかり子供である特権を享受し始めたオレを睨み付け、シフェルは金髪美女を後ろから抱き寄せる。ベッド脇の椅子に座っていたお姉さんを椅子ごと抱き寄せて、その首筋にキスをした。


 くそっ……なんて羨ましい。


 オレだってキスしたい。



 ジト目で見つめるオレの頭を、後ろからがっしり掴まれた。

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