08.遊びつかれた子供(3)

 ぺたりと地面に座り込んだ子供に戦意がないと判断し、シフェルは銃をおろした。



 ――甘い。



 座った真横のナイフを掴み取り、手首の返しで青年へ投げる。顔を覆った両手の間からしっかり定めていた標的だが、彼は本能的に首を傾げて避けた。


 ただ、完全には無理で……整った顔に傷が刻まれる。


 右頬を無残に切り裂いた傷から、かなり多くの血が流れ出た。


「銃口を下げるのが早すぎる、まだ降参って言ってないぜ?」


 頬にまだ涙の跡を残しながら、にっこり笑ってみせる。



「卑怯だ」


「こら、キヨ! いい加減捕まれ」


 ノアやジャックの叫びに振り返れば、ライアン、外出したサシャまで駆けつけていた。彼らが何か騒いでいる。眉を顰めたオレが口を開こうとした瞬間……『反動』が来た。



 まさしく、反動と呼ぶしかない。



 使った魔力が底をついたか、未熟な身体が無理やり引き出した戦闘能力に耐えかねたのか。力を解放した精神が限界を迎えた可能性もある。


 何にしろ、指一本動かせなくなった。


 激しい吐き気と頭痛、そして全身の倦怠感が一度に全身を支配する。ガンガン殴られる激痛が頭を襲い、咄嗟に右手で顳を押さえた。


 倒れそうな身体を左手で支えても、持ち堪えられない。



 ぐらり……身体が傾いだ。


 掠れる意識の中……思ったのはふたつ。


 この世界に来てから気絶ばっかり。


 あと、遊んでた子供が電池切れて寝るみたいで格好悪い……という、なんとも言えない後味の悪さ。


 そこで完全に意識は奪われた。






 目が覚めると……なんて表現はいい加減飽きた。


 どうせ見えるのは天井だろう。倒れること3回目ともなれば、さすがに慣れてくる。


 しかし、今回は今までのどのパターンとも一致しなかった。


 まず、目を開けても暗い。


 夜ではないらしく、隙間から光がちらほら感じられる。


 温かく柔らかいものに包まれる感触は『幸せ』だった。とても心地よい。ハーブ系のすっきりした香りを胸いっぱい吸い込んだ。


 光を避けるように顔を埋め直し、優しいものを堪能する。


 ずっとこうしていたい。


 戦場も痛みも血生臭いのもゴメンだ。


 他人を傷つけて、傷つけられて、ひどく腹が立った。苛立ち紛れの八つ当たりが建物の煉瓦を溶かして、片付けたゴミの残骸を踏み躙る。


 こんな殺伐とした世界だと知ってたら、異世界なんて来なかったのに。


 カミサマってのは、たちの悪い詐欺師だ。


 明らかにオレを騙したよな?


 別れ際の誤魔化しは絶対、ヤバい部分を故意に言わなかったに違いない。

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