第3章 運命の出会い

09.自覚ゼロ(1)

「左利きの自覚、ないのですか?」


 こいつ、バカか?


 シフェルの表情は言葉より雄弁に本音を語る。いや、わざとだった。絶対に金髪お姉さんの胸に顔を埋めた仕返しをされたとしか思えない。


「ずっと右利きだったぞ?」


 持ち上げた右手を握って広げる。左手も同じようにしてみるが、どちらが利き手かわからない。


 異世界に来ても身体は同じ筈だよな? こっちで美人規格の顔にしてくれと頼んだが……確かに年齢は幼くなってる。それに身長も外見年齢相応に縮んだっぽい。だけど、元が同じ身体なら利き手は同じだろう。


 いまだに金髪お姉さんを後ろから抱き締める狭量な男を睨みつけた。


「戦うとき、貴方は左手で魔力を操っていました」


 淡々と指摘され、考えてみる……が、わからなかった。


 魔力を使った記憶はある。傷つけた男を千切って捨てて、一緒に捕まってた子供を逃がした。右手の小指が痛くて折れてるかも知れないと気付いた瞬間、目の前が赤くなって……。


「うーん……わからない」


 口をついた言葉は素直すぎて、集まった皆も考え込んでいる。


「最初に銃を貸した際は右手で銃を撃ったぞ」


「本を捲る手は左だったか?」


「鏡は右手で持ってたな」


 レイル、ジャック、ノアの指摘に全員が唸った。右手も左手も大差なく使っている気がする。これは所謂、両利きってやつか?



「キヨ」


 突然名を呼ばれて振り返ると、ナイフが飛んできていた。驚いたが、反射的に左手で受け止める。刃の先を指で挟んで止め、ほっと息を吐いた。


「ちょ…っ、危ないじゃないか!」


 ライアンはじっと見つめた後「左利きだ」と断定した。


 直後、後ろが気になって振り向き、飛んできたボールを右手でキャッチしようとして……弾いてしまう。掴んだつもりだったが、掴み損ねた感じだ。


「うん、間違いなさそうだ」


 サシャの確認に、苦笑いして転がったボールを拾う。物騒な確認方法だが、まあ確実に結果がでるのは否定できない。事実、左手で阻止したナイフは掴んだが、右手のボールは失敗したのだから。


「でも……これって、危機感の問題じゃないかしら?」


 首を傾げながら呟く金髪お姉さんが、うーんと悩みながら右手の指で唇を押さえる。


 なんだ、その可愛い仕草……そして後ろにいる男に軽く殺意が湧く。まだ抱きついてるのか、この野郎。ちょっとばかし顔がいいからって、調子に乗るなよ!

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