177.仕事は続くよ、どこまでも(2)
「キヨに仕事切られたら、ショックでしばらく立ち直れなくなりそうだ」
苦笑いしたジャックは、傭兵として長く戦場にいた。だから戦が終われば傭兵が不要になり、解雇される繰り返しを経験している。心配するのも当然だった。
前の世界でも雇用止めとか、派遣切りなんて単語があったし。傭兵は他の業種につけない人が集まってるから、戦争がなくなるかも知れないなんて死活問題だ。士気が落ちるから、不安は早めに解消しておこう。
「仕事ならずっとあるよ」
少なくともオレが生きてる間は、仕事を与えられる。それ以降は、孤児院出身者が世間の見る目を変えてくれたら、仕事が続くと思う。
「少なくともオレが死ぬまで、選ばなきゃ仕事あげられるけど」
竜の属性は長生きだ。犬や猫、鳥属性が多い傭兵より寿命は長かった。夢半ばでオレが殺されなきゃ、彼らの仕事は死ぬまで与えることが可能だ。
5つの国はそれぞれ独立を保ってもらう。そのため国境警備の兵が必要だ。これは正規兵で賄えるけど、単発の騒動は傭兵が向いている。特に敵地に乗り込んで戦うなんてパターンは、正規兵だと弱い。あらゆる国の孤児が集まった傭兵軍団だからこそ、対応が可能なのだから。
それに傭兵は仕事の質に拘らないし、真面目だ。手先の器用なやつは建築系の手伝いも出来るし、文字が読めるようになれば文官の手伝いも任せられる。今後手に職つけてもらう予定だし、オレの警護でずっと働く方法もあった。
やたら狙われそうな立場になるから、安心できる実力者である傭兵は確保しておきたかった。敵に雇われりしたら、お互いにやりづらい。
そう説明して、スープの残りを飲み干す。調味料を使って彼らが味付けたスープは、オレの味に似ていた。後少し塩を抑えたら、本当に美味しいと思う。
「ぷはー、ご馳走様でした」
両手を合わせると、周囲の連中も真似して呟いた。今更だが、この挨拶は広めてもいい文化だろう。実害ない上に、食べ物に感謝する習慣だからな。日本人転生の証として、根付かせてしまおう。後からきた別の日本人が、にやりとしてくれたらいい。そんな仕掛けだ。
「なあ、キヨ。本当におれらを雇うのか? だって偉くなるんだろ?」
他の優秀な騎士だの、職人だの、雇い放題だ。そう呟くジャックの自信なさげな様子に、苦笑いして椅子の上に立ち上がった。行儀悪いが、届かないんだから仕方ない。靴を脱いで机の上に膝で乗り上げ、ジャックの硬い茶髪を乱暴に撫でた。
「あのさ、オレは楽して生き残りたいタイプなんだよね」
出来るだけ苦労せず、楽に生きていきたい。誰でも思う当たり前の考えの持ち主で、別に誰かを救うなんて崇高な意識はない。
首をかしげるジャックへ、しっかり言い聞かせた。
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