177.仕事は続くよ、どこまでも(3)

「いいか? 強い実力者が金で雇えるなら、雇ってオレは戦わずに楽したい。そいつに払う金をケチって敵に回られるくらいなら、がっちり契約結んで囲い込みたいんだよ」


 気が知れてるからこそ、互いの癖がわかる。そんな仲間と戦うのは、普通の敵より疲れるだろう? 何より気分が滅入る。勝っても負けても嫌な気分になるのに、なんで戦わなきゃならない。しかも金を払えばその嫌な体験を避けられる道があるのに、わざわざ金をケチって嫌な思いをするドMな習性はありません。


 説明を終えると、なぜか尊敬の目を向けられた。


「すごい考え方をする奴だな」


「ボスらしい考えだが、普通は金を取るぞ」


 ジークムンドとジャックに肩を竦めて言い聞かせる。彼らは敵にしたくないから、きっちり理解させる必要があった。


「考えてみてよ。金は稼げば払える。借金したって返せばいいだろ? でも人間関係は壊してしまったら戻らないんだ。表面上は仲良くなれても、きっと心の中で裏切られる心配が消えなくなる。そんなの最悪じゃん。オレはこの世界で親戚も親もいないのに、友人まで失くしたら生きていけない」


 自分で言っておいてなんだが、泣きそうだぞ。そう、この世界にオレを守ってくれる奴はいない。引きこもりを許してくれる親も、しっかりしろと叱ってくれる家族もいないのだ。異世界人という単語が示す通り、世界が違う奴だった。


 いきなり戦場に無手で放り込まれたオレを助けてくれたのは、ジャックやレイルで。シフェル達も助けてくれたけど、リアムって恋人も出来たけど……馬鹿を言い合える友人の地位は、どうしたって傭兵に傾いてしまう。


「友人か。いいのか?」


 おれらで――その響きに、大きく頷いた。深呼吸して、目の奥がじわっとしたのを誤魔化す。涙は女と子供の武器だが、この場では卑怯だろう。少なくとも味方へのオウンゴールに使っちゃダメだ。


「お金で友情買うのって、卑怯な気もするけど」


 くすくす笑いながら涙を隠す。くしゃりと乱暴に髪を乱すジャックが、ずずっと鼻を啜った。すると後ろからノアがしがみつき、隙間からライアンに肩を叩かれた。コイツらは本当に真っ直ぐで、気のいい奴らばかりだ。


 この世界が善良で正直な奴が多いのは、異世界人が余計な知識を持ち込まなかったからだと思う。オレと同じで、この世界に長くいると居心地の良さに、壊したくないと考えるんだろう。


 だから残虐なだけの武器を与えなかった。世界を濁らせる知識を教えなかった。オレもこの世界を守りたいから……いつか死ぬ日に誇れる自分で居たかった。

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