269.明日が楽しみだなぁ(1)

 近衛騎士と協力して縛り上げたのは3人、襲撃者はその4倍はいたんだけど……8人ほど動かなくなって、2人は瀕死の重傷だった。うん、やり過ぎた。騎士が動けない分だけ、短剣片手に頑張った結果だ。


「何事ですか! キヨ? まさか……」


「この状況見て、なぜオレが襲撃犯だと思うわけ?」


「非常識だから、でしょうか」


 駆けつけたシフェルと漫才を始めたところに、コウコの許可を得たリアムが扉を開く。よく扉って、ぎぃと軋む音がするだろ。あれがない。きっちり手入れがされた扉は、重厚感あるのに音もなく開いた。


 ちらっと顔を見せたリアムに微笑んで手を振る。


「おう! もう終わった……ぞ?!」


「セイっ!!」


 突然顔色を変えたリアムが駆け寄る。え、まさか撃ち漏らした敵がいるとか? 焦ったオレはリアムを抱いて庇った。だがいつまでも攻撃はない。結界を張ったからか。顔を上げたオレは、笑顔で人を殺しそうなシフェルと目が合った。


 そうだ、コイツがいるから安心だった。慌ててリアムの顔を覗き込むと真っ赤なのに、オレの肩や背中を撫でている。


「リアム?」


「よかった、ケガじゃないのか」


 返り血で真っ赤なの忘れてた。どうやらオレの赤い姿に、ケガをしたと勘違いさせたようだ。


「ごめん、何ともないよ」


「セイが無事でよかった」


 繰り返すリアムが、我に返ったようにひとつ深呼吸して口調を正す。


「近衛騎士の働きに感謝する」


「「「はっ」」」


 すげぇ……ファンタジー映画で観た光景そのものだ。他人事のように感心しているオレに、シフェルが苦笑いした。


「ご苦労様でした。キヨは返り血を落としてきて下さい。もちろん陛下もです」


 真っ赤に汚れた金髪美少年に抱き着いた黒髪美少女は、しっかり血で汚れていた。お互いの酷い有り様を笑い合ってから挨拶をする。


「おやすみ、リアム。お風呂に入ったら風邪ひかないようにね」


「ああ、わかった。セイもしっかり休んでくれ。今夜は助かった。ありがとう。おやすみ」


 手を振って別れるオレに、濡れたタオルが差し出される。シフェルが来た直後に消えたと思ったら、なんとも準備のいいじいやだ。


「ありがと」


 受け取って顔を拭いてから手を拭う。他は風呂に入った方が早いだろ。少し歩くとヒジリがのそっと顔を見せた。黒い艶のある毛並みを撫でて、戦ってくれた礼を伝えると嬉しそうに喉を鳴らす。この辺、大きいただの黒猫だよな。


「明日の裁判、盛り上がるでしょうな」


 じいやの予言に、オレはにやりと悪い笑みを浮かべた。


「仕込みは上々、結果をご覧じろってね」


「キヨヒト様。それを申すなら、細工は流流仕上げをご覧じろではございませんか? それと意味からして使う場面も間違っております」


 ……異世界だから通じないと好き勝手してきたオレのライフは、ゼロになるかも。

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