269.明日が楽しみだなぁ(2)
「うん、異世界版だよ」
「左様ですか」
にっこり笑って流してくれたけど、絶対に「この主人、バカだ」と思われたに違いない。くそっ、事実だから訂正できなくてモヤモヤするぜ。追求しないのは、主君を立ててくれるってやつか?
「官舎のお部屋ですが」
「うん」
失言しないよう短く返したオレに、じいやはけろりと爆弾発言した。
「お部屋が粗……いえ、質素過ぎましたので予算を使い家具を新調しました」
「……は?」
「ベッドは柔らかなスプリングのもの、サイドテーブルを置いて、机や椅子もご用意させていただきました」
うん、有能だ。あのシフェルが上手に隠匿した予算を見つけて、オレが他の仕事してる間に部屋を整える。すごく立派だけど……問題点がひとつある。
「あのさ、早朝訓練があるから部屋を急襲されるんだよね。全部壊されちゃう」
オレなりに丁寧に説明した。返ってきた答えは予想外だった。
「問題ありません。キヨヒト様が事前に察知して、外で迎え撃てば済みます」
「あ、うん、そうします」
なぜか逆らってはいけない気がした。オレはもしかして便利な執事ではなく、シフェル並みに賢く手に負えない部下を手に入れたのかもしれない。
ちょっと涙目になりながらも、自室で着替えて魔法で浄化する。クリーンの魔法は本当に便利だ。じいやもついでに綺麗にした。丁寧にお礼言われたよ。
「明日は裁判の準備がございます。打ち合わせの予定をウルスラ様よりお預かりしました。朝7時にお迎えにあがりますので、ご準備をお願いします。早朝の訓練を明日は控えていただくよう、ジークムンド殿に申し伝えてあります」
「……うん、ありがとう」
どうしよう、執事が有能すぎてオレのチートが霞むんだけど? これ、気をつけないとこの世界の主役を奪われる展開だ。気を引き締めないとヤバい。
ごくりと喉を鳴らして緊張を誤魔化し、ベッドに入った。ふわりと体を包む柔らかさと、新品シーツの冷たさにびくりと揺れる。ノリがぱりっと効いたシーツが、こんなに冷たいなんて知らなかったな。
少しすると温まって、うとうとと眠くなっていく。気づいたら、じいやは部屋にいなかった。そのまま眠ってしまったけど、途中で夜中に飛び起きる。
オレ、じいやの部屋用意したっけ!?
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