268.皇帝陛下暗殺未遂?!(3)

「キヨヒト様、このような輩を処分しても手が汚れるだけです」


 じいやだった。何、そのカッコいい登場。しかも掴まれた手首が動かない。そっと引き剥がされて、肩から力を抜いた。だが自由になった男は反撃を試みる。筋肉が盛り上がる腕で殴りかかった男を、じいやは笑顔のまま地面に投げ飛ばした。


「え? いま……何した?」


「ほっほっほ、旅館の主人の嗜みですぞ」


 え? それ、どんな旅館だよ。こええよ、やたら強い主人がいる旅館……よく反社団体が来てたのか? 引き攣ったオレの顔に、じいやは肩を竦める。


「合気道、とか?」


「残念ですな、柔道です」


「あ、そっち」


 ちなみに柔道も合気道も、この世界にない単語だった。すでに聞いてみたから間違いない。なのにマーシャルアーツとか通じて、ちょっと遠い目をした記憶がある。オレとじいやの会話が暗号に聞こえたのだろう。騎士は怪訝そうな目を向けてきた。


「皇帝陛下の警護! 急いで」


 言いながら自ら先陣を切る。一気に階段を駆け登るオレの視界に、別の男達が映った。勢いを殺さずに走り、後ろから首に腕を回して引き倒す。これ、運動神経悪いと自爆技になる。飛び退ったオレの足元から、ヒジリご登場。黒豹は唸ると手近な奴に噛みついた。


「あ、名誉の噛み傷」?


 聖獣に噛み付かれるなんて名誉じゃないか。そう呟いたら、ぼきっと嫌な音がしてヒジリの咥えた男が動かなくなった。


『死ねば名誉も関係あるまい』


「ちょっ! 何殺しちゃってるの。黒幕探しするから最低でも1人は残して」


 しっかり言い聞かせるオレの頭目掛けて、ナイフの刃が向けられる。ここで銃を使われたら結界による跳弾の心配があったけど、室内で狭いせいか使われなかった。ほっとしながらナイフの刃を蹴飛ばす。


 跳ねたナイフをじいやが事もなげに受け止めた。さりげなく渋い動きでフォローしてくれてる。倒した男を踏みつけにして、見回すと騎士も長剣を振り回せずに苦戦していた。


 これは今後の課題だな。見た目はいいけど、短剣や拳銃を持たせた方が良さそうだ。重装備になるが、敵を倒すのがお仕事なので我慢してもらおう。


「セイっ」


「リアム、そっちは無事?」


「大丈夫だ、いま開けるから」


「ダメ。コウコが許可するまでベッドの上で待ってて」


 オレとコウコは契約してるし、他の聖獣経由で状況も掴めるだろう。まずリアムの安全確保だった。この扉は重いけど、その分衝撃にも強い。蹴破ろうとしても、時間がかかるはずだった。予備のナイフを掴んで引き抜き、オレは苦戦する騎士を襲う敵に突き立てる。


「ここから先は通さない」


 オレにしてはカッコつけて、扉を背に守りながら敵に向き合った。

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