268.皇帝陛下暗殺未遂?!(2)

「じいやはここにいて」


 戦うなら周囲は敵だらけの方がいい。昔なら泣いて逃げる状況だけど、ある程度のチートと強さを手に入れると味方を傷つける心配の方が大きいからね。じいやを置いて地を蹴ったオレの隣で、ヒジリが飛び出した。


「散らすよ」


『承知』


 ヒジリが一度影に潜った。足元から飛び出す作戦だろう。猛獣が攻撃したら飛び退くはず。空中に収納の出口を作ってナイフを引き出した。予備をベルトに差してから、鞘を残して1本手にする。剣と呼ぶ長いタイプは身長が低いと振り回すロスの方が大きかった。


「動くなっ!」


 騎士に向けて手を伸ばした男の後ろから、首筋に刃を突きつける。びくりと揺れて動きを止めた男の仲間が、腰に手を回した。上着で武器を隠していたらしい。


「ヒジリ、ブラウ」


 がうう……唸り声を上げたヒジリが、一番後ろにいた男の足を噛んで引き摺り込んだ。あの闇の中は生き物が入れないって……ああ、うん。まあ事故ってことで片付けよう。死体が出ないと殺人事件にならないって、前世で聞いたし。


『猫づかいが荒いんだからぁ』


 文句を言いながら青猫が目の前の男に飛びかかった。爪で上着を裂くと、ナイフと銃が落ちる。ブラウは蹴飛ばして影の中に取り込んだ。これでほぼ丸腰だ。ぶわっと元の巨猫に戻ったブラウがにたりと笑った。


「やばい、奴は殺る気だ!」


 これ使ってみたかったんだよね。止める気ないけど。何のアニメだったかな。もう覚えてないや。


 我に返った騎士が、大急ぎで目の前の男の身体検査をした。袖からナイフ、足に小型拳銃、上着の陰にも拳銃で……最後に爆薬セットまで出てくる。どうやってここまで辿り着いた? 絶対に仲間がいるよな、それも顔の利く貴族だ。


「エミリアス侯爵閣下、助かりました」


「挨拶いいから拘束して。たぶんリアム……じゃなかった、皇帝陛下の暗殺が目的だよ」


 そう思った理由は時間と連中の装備だ。宮殿に忍び込むにしては時間が遅い。貴族も巻き込むならもっと早い時間じゃないと、彼らも屋敷に帰っちゃうからね。それに装備がわりとシンプルなんだ。これは大勢を相手取って戦うのではなく、リアムを殺したらすぐ離脱する予定だから。


 そう考えると、このナイフが滑って首切っちゃってもいいかな? と思う。だってオレの大切なお嫁さんを殺そうとしたわけで、それってオレを狙うより罪深くね? ぐっと腕に力を込めたとき、手首を掴まれた。

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