第32章 気づいてはいけない?

232.梅干しは毒じゃない(1)

 ジャックは地元民のくせに苦労しながら追いつき、飄々としたベルナルドは簡単そうについてきた。レイルに至っては魔法でズルして移動。性格がよく出てるよ、ほんと。


 街の門をくぐり、ジャックの家に向かって歩く。馬を走らせるほど緊急事態じゃないし、誰かにぶつかると危険なので、歩いて移動となった。奴隷の子達は、何も言わなくてもついてくる。


「この子達のいた家って分かるかな?」


 まだ奴隷がいると思う。救出は騎士や衛士に任せるとして、家の特定が必要だった。


「お祖父様に聞くのが早い」


 ジャックの口から貴族っぽい言葉が出ると、執事の「おぼっちゃま」という呼び方を思い出して、腹捩れる。笑いを堪えるオレに、ジャックがむすっとした乱暴な口調で続けた。


「持ち帰って組み立てるぞ」


「そんな、某機動戦士のプラモデルみたいなこと言わないで」


 グロ映像にご注意ください! のテロップ流れるとこだから。あの連中のあれやこれや、パーツを組み立てるのはご遠慮させていただきたい。


「ヒジリ、簡単に組み立てる方法ある?」


『……ふむ、一番早いのは主殿の口付けであろうな』


「却下」


 一言で案を潰す。なんでグロ相手にキスとか、オレの罰ゲームになってんだよ。いくら早くてもそんな案は却下だ。たぶん、唾液での治療が一番効果が早いという意味だと思うけどな。


『僕はぁ、ゾンビも嫌いじゃない』


 ちらっと青猫ブラウが『やっちゃえよ』と嗾ける。オレの蹴りが猫に炸裂した。が直前で後ろに自ら飛ぶとは?! ダメージを減らす小技が効いて、いやいや――バトル小説じゃねえんだからよ。素直に蹴られてくれ。


「オレは怖いの嫌いだよ」


 けっと吐き捨てたところで、ベルナルドが髭を撫でているのに気づいた。何してるんだ?


「ベルナルド、どうした?」


「いえ、髭が少し凍ったのか……ゴワゴワしまして。大したことございません」


 笑って誤魔化してるが、つまみ食いのせいか。寒い場所で食べた汁物は急いでいたので髭に垂れた。でもって雪原を抜けてくる間に凍った。


「つまみ食いの罰だ、我慢しろ」


 知ってたんだぞと示すつもりの言葉に、ベルナルドが予想外の反応をした。


「我が君の魔法でしたか!」


「……それは違う」


 ただの自然現象だ。でもってオレの推理は、見た目は子供で頭脳は大人の名探偵より冴えてない。

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