125.敵は熱いうちに打て!(5)
「あら、こんな子供相手に大人気ないわ」
「そうよ、可哀そうじゃない」
大人が寄ってたかってみっともない。そんなニュアンスの女性達がすすっと前に進み出る。あっという間に彼女達のスカートの合間に挟まれた。不思議な安心感……家の中は女性が強いものだが、この世界は社交界でも女性が強いらしい。
まあ、子供を産んで育てるのは女性だし……全員お母さんから生まれるんだから、女性がのびのびと過ごせる世界はいいよね。前世界も含めてずっと男だけど、うちは女性が強い家系だから違和感ない。逆にこうして女性が前に出てくれると安心しちゃうヘタレなもんで。
「失礼なガキは躾が必要なのですよ、レディ」
狐男の後ろに控えていた青年が口を挟む。この状況でお嬢様方に逆らうなんて、命知らずだな~と感心しながら、物知らずな子供のフリで俯いた。
「そもそも、ぽっとでのガキが貴族のフリをしてるのもおかしい」
「その派手な服装も、目立とうとする浅ましさの表れだ」
暴言が次々と投げつけられる。侯爵家のおっさんの後ろにいた取り巻きは、おそらく辺境伯のオレより地位が低いのだろう。だが、おっさんの威を借るなんとやら……元気いっぱいに罵ってくれた。思惑通り過ぎて口元が緩み、隠すために近くの奥様のスカートの陰に顔を埋めた。
斜め後ろの奥様が抱き締めてくれる。社交界で奥様方は髪をすべて結い上げるし、未婚女性は前髪を垂らすのが服装規定だ。きっちり結い上げた奥様のふくよかな胸と柔らかな腕に包まれ、ぽつりと呟いた。
「お詫びの品は気に入りませんか? 困ったな」
「こんなものっ!」
腰を抜かした狐男から取り上げた腕輪を投げ寄こした。これは偶然だが、背の低いオレじゃなくて隣のお嬢様の腕に当たって落ちる。悲鳴を上げたお嬢様に、青ざめたのは向こう側だった。
「まあ! なんて不作法な!」
「っ、大丈夫でしたか? レディ」
憤る役は先頭のブロンズ髪のお嬢様に譲り、被害者に心配の言葉を向ける。落ちた腕輪を拾い、ぼそりと一つ目の罠を作動させた。
「こんなもの、ね……陛下にもらったんだけど」
そう、今日のオレの服はもちろん装飾品はすべて『皇帝陛下からの賜り品』だ。先ほど勢いよく罵ってくれた内容は、用意してくれた皇帝陛下への暴言に当たる。
「陛下からの……それは大変ですわ」
ブロンズの髪のお姉さんが大げさに騒ぎ立てる。その騒動に、周囲の貴族の視線がこの場に集中した。もう少しやっつけたら、シフェルを呼ぶために……あれ? 近くに置いたって言う赤ワインが見つからないんだけど?
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