125.敵は熱いうちに打て!(4)

 作戦変更だ。おっさんに喋らせて尻尾を掴むため、オレは被った猫を1匹捨てることにした。


「そういうお前は名乗らないのか?」


 言葉遣いが少し悪くなるが、後ろのお嬢さんから「ギャップ萌え」という言葉をいただいたので、笑顔を振りまいた。そう、いろいろ素行が悪いので忘れられかけた設定だが、カミサマ曰く「こっちの基準で美形」に仕上げてもらったオレの外見は女性受けする。しかも今なら可愛いと撫で繰り回せる外見年齢なのだ。


 お嬢様や奥様方がすすっと距離を縮めた。ボンネットだっけ? ぶわっと広がった大きなスカートの中でちょこちょこ動かした足で近づく。ちらりと視線を向けると、先頭のお嬢さんが意味ありげに笑った。お顔も大変整っておられますが、どこかで見たような髪色ですね。


 この世界でいろんな髪色を見てきたが、赤銅色の髪は珍しい。真っ赤なのはいるけど……明らかにブロンズ系だよね? その髪色の騎士様は、ご令嬢の親族かも……裏工作が得意そうな公爵閣下兼騎士団長の顔を思い浮かべ、オレは目の前のおっさん集団に向き直った。


 シフェルに比べると小物感がすごいな。


「お前ごときに名乗る家名ではない」


 言い切った狐男に、オレは驚いた顔を作った。それから気の毒そうに眉尻を下げる。この辺の顔芸は鏡の前で滅茶苦茶練習した。おかげで、傭兵連中に熱が出てないか確認されること十数回の新記録達成だ。


「それはそれは……申し訳ない。名乗れるほどの家名がない方が出席できる場と思わず、失礼しました。もうですよ」


 功績も何もなく恥ずかしくて家名が名乗れないと言い切り、オレは穏やかに微笑んで見せた。最後の辺りは気遣うフリして退場宣告しておく。真っ赤になった顔でぱくぱくと声にならない文句を吐き出そうとする狐男へ、首を横に振って否定する。


「いいんですよ。オレの配慮が足りなくて恥をかかせてしまったので、お詫びにこちらを」


 大量につけられた宝飾品から腕輪をひとつ外して、そっと手の上に乗せてやる。握り込む形で腕輪を持たせて、顔を見上げた。


「さっさと消えろ」


 邪魔者排除のために、ちょっとだけ殺気を見せる。これは傭兵達と命がけで戦場を駆けたオレの脅しだった。あまり聞き分けないと処分しなきゃならない。護身も兼ねて手筈は整えているが、こんな序盤から手の内を見せる気はなかった。


 安全な宮廷生活しか知らない狐男はびくりと肩を震わせ、唇まで青ざめて後ろに下がった。そのまま数歩後ろへよろけた後にぺたんと腰が抜けて座り込む。


「貴様、何をした!」


「こんなもので誤魔化されるか!!」


 殺気を向けられていない取り巻きは元気だ。しかしオレの後ろのお嬢様や奥様方も、彼ら以上にお元気だった。

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