125.敵は熱いうちに打て!(6)
先に手元に用意しておこうと思ったのに、見回す周囲にあるのは白ワインばかり。多少泡が出てたりするけど、全部白系……これはどうしたものか。赤が目立つように白を置いたテーブルの近くを指定されたのに、肝心の赤ワインが届いてない様子。
少し時間を引き延ばすしかない。
「ええ、皇帝陛下がご自分の腕から外してくださった腕輪ですが……そうですか。オレが手にしたせいで『こんなもの』と言われるなんて、陛下になんとお詫び申し上げたらいいか」
悲しそうな顔を作る。これはハリウッド映画の主役張りに練習した。あのシフェルでさえ「見事な顔芸」と褒めた(?)くらいの実力だ。こんなガキでも演技派ですから。緩みそうになる口元を引き締めると、ぴくぴくと動いてしまう。
「お可哀想に……」
「なんてひどい方々なのでしょう」
ひそひそと周囲で観戦してらした貴族が参戦しはじめる。祝賀会はほぼすべての貴族に『招集』がかかる。これは招待ではない。強制的な意味合いを持つ命令なのだ。普段は顔を見せない地方の貴族も多く集まるため、
だが日和見という傾向は、こちらの立場が有利だと思わせれば一気に味方が増やせる。事実、お嬢様や奥様方が騒いでいた時は見ているだけだった貴族が、こちらの後ろや横を固め始めた。
皇帝陛下のお気に入りに取り入る方が、後の自分に有利だと気づいたのだ。数人が動けば、慌てて味方だと表明する連中も現れる。会場内の人がざわつきながら動き始めた。
『主殿』
ひょこっと顔を出したヒジリの背に乗ると、後ろからコウコが顔を見せた。するすると左腕に絡みつく。黒豹の背に乗る正装の少年、腕にミニチュア赤龍を巻く――どこの厨二ラノベ主人公!? ことんと肩に重さが増したので右側を振り返ると、ウィンクするイケメンチビ竜と目があった。
そもそも聖獣はラスボスだから、こんな序盤に顔出しちゃダメだろう。得意げなドヤ顔してる場合じゃないからね。あと青猫で勢揃いじゃん。皆このままだと出番がなく終わりそうな予感がして、慌てて出てきたようだ。確かにオレのチートも揮う機会がないまま、終わりそうですよ。
貴族ってこんなに簡単に陣営を変えるの? オレが読んだ「ざまぁ」系ラノベはもっと敵が抵抗してきたんだが、現実と小説はここまで違うなんて……用意したオレのあれこれは無駄に終わりそうで、残念さに溜め息が漏れた。
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