348.なんだかんだ騒がしい(1)
温泉が出た後、街での孤児院の印象は右肩上がりだった。排水路経由で川に流すお湯をもらいに、近所の人が訪れた際の対応が良かったのだろう。礼儀正しいと思うぞ、軍隊式だけど。
噂を聞いて訪れた商人や貴族、平民に対しても一切の分け隔てなくお湯を分けた。その上、礼儀正しくきちんとした身なりの子を見て、養子にしたいとの申し出もあったらしい。いくつか養子縁組の話が決まり、その子達が旅立つ頃、新しい孤児院ができた。今度は街中、それも一等地に移動だ。
当初建設を邪魔されたのが懐かしくなる。お祝いに駆けつけ、一緒に騒いだ。温泉は立派な建物を作ることになったが、なんと持ち主はオレになるらしい。というのも、皇帝陛下が褒賞として与えた土地だし、建築費用をオレの貯蓄から出したそうだ。
全財産持ち歩いてるんだけど? と首を傾げたところ、以前にもらう予定だった金貨を回収しておらず、利息がついた。さらに先日の戦を終結させた褒美が加わり、とんでもない高額貯蓄になったのだ。それを使うという。
反対する理由はないので任せた。宰相ウルスらから聞いた裏事情では、商人に任せると温泉が高くなりすぎて、平民が利用できなくなる可能性があるとか。オレは利益に拘らないし、構わないけど。日本の温泉なんて、庶民どころか猿まで楽しんでた。
「管理人をどうしますか?」
「じいやがいるじゃん」
ここは即答。うちのじいやは、あの椿旅館のオーナーだぞ? 温泉の管理や施設の運営は丸投げできる。そう話したら、あっという間に手続きが終わった。執事としての仕事に戻るため、女中さんを鍛えてくると言い置き、じいやは離れた。最近、オレの周囲がちょっと寂しい。
北の王家も、代替わりを決めたという連絡が入った。レイルが伝えに来たので本当だろう。老いを感じ若い世代に……とかなんとか。実際の理由は全然違うと思うけどね。あの人、こっちに遊びに来たいんだよ。でも国王の肩書が邪魔なんだろ。しかも戦争が終わって一段落、ちょうど手が空いた時期だった。条件が揃ったタイミングで勇退を決めたんだな。
シンは文句言いながらも準備を進めている。意外だったことがひとつ、ヴィオラが婚約した。驚くなかれ、お相手がジークムンド! 北の国の貴族退治に来た傭兵に一目惚れしたが、身分的に無理だと諦めていた。その男が南の国王として戴冠したので、これ幸いと申し込み受諾されたらしい。お幸せに。
あれこれ起きたこの2年、ようやく落ち着いてきたと言いたいが、オレの周囲は相変わらず騒がしい。
「こら、ブラウ! 盗み食いしたな!?」
『はひぃ、ほ、ほふがほんなほほ(熱い、ぼ、僕がそんなこと)』
していないと言い訳する口から、唐揚げが覗いてるっての!! 容赦なくナイフを投げる。爪で弾いてドヤ顔をするブラウの髭が、はらりと落ちた。最初から狙いは髭だよ。お前が弾く角度まで計算してやったぞ。
『にゃ! なんてこと……我が秘技が破れるなど』
「ええい! どのアニメか判断できねえよっ! じゃなくて、お前の唐揚げなしな」
夕食のおかずだったんだよ、それ。ぴしゃりと罰を言い渡し、文句を言う青猫を蹴り飛ばす。ヒジリはのったり昼寝をしながら過ごし、スノーもその背中で休憩中。マロンはお手伝いに夢中だった。
『僕も油やりたいです』
「子どもはダメ」
『聖獣だから大人です!』
「体が大きくなるまでダメ」
何でも試したがる辺り、やはり子どもだよな。油は危険なのでマロンは禁止、もちろん聖獣なので問題ないと思うけど、見てるこっちが怖い。
『主人、あたくしの火加減はいかが?』
「最高だ、コウコ。さすがは火の聖獣だな」
大喜びで炎を吹くミニ赤龍は、護衛対象のリアがこの場にいるので大好きな筋肉に絡まっている。定位置のベルナルドの腕は、今後も彼女のお気に入りだろう。コウコの様子を見ると、ベルナルド自身も好きみたいだけど。その辺は野暮なので追求しない。
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