241.東の国を占拠せよ(7)

「この国さ、オレと聖獣達で占拠する」


 しんと静まり返った後、最初に動いたのはジャックだった。手にしたお茶を一口、隣のアーサー爺さんも同じ動きをする。こういうとこ、家族なんだと思う。


「我が君、よろしいですかな?」


「どうぞ」


「占拠してどうなさるのですか」


 ベルナルドは、理解するための準備を始めた。なぜそう考えたのか、どうして占拠を望むのか。オレの考えを理解する気があるみたい。まあ侯爵という高位貴族で、騎士団のお偉いさんだった彼にとって、上司の思考を理解するのは大切かも。慣れてるだろうし。


「占拠したら面倒みなくちゃならねえだろ」


 ライアンが嫌そうに鼻に皺を寄せた。隣でノアも複雑そうな顔をする。


「おれも反対だ」


 こんな自分勝手な国は滅びればいい。そう吐き捨てるレイルの隣で、内心を上手に隠した微笑のシフェル。


「占拠したからって、どうしてオレが面倒見るの? そんな義務ないよ」


 けろりと爆弾発言を投下。だってさ、オレが面倒見る義務ないじゃん? そういう治世はやりたい人がやればよろしい。オレの出番じゃない。


「キヨ、結論から話すのはおやめなさい」


 シフェルにやんわりと叱られた。混乱を招く言い方をするな、そう注意するシフェルへ曖昧に笑う。


「結論を先に言わないと混乱しない?」


「あなたの話では、どちらでも混乱します」


 あっそ。どうせ話し方がおかしいですよ。そう拗ねてみせると、ノアが溜め息をついた。


「自覚はないようだが、キヨは話し方がおかしいのではなく、思考がおかしい」


 ……頭おかしいとオカンに言われたオレの気持ちがわかるか? 足元でブラウがにやりと笑った。そうか、お前は理解してくれるか。


『誰に統治させるか、すでに決めているのであろう?』


 ヒジリがのそっと歩いてきて、膝の上に手を乗せる。これはあれだ。いつもの……。


「イテッ」


 噛まれた。ごりごりと嫌な音がした後、丁寧に舐めて治される。こら、スノー! 羨ましそうに見るんじゃない!!


「獣人が迫害されるのは国がないからだろ? じゃあ国を作ればいいよ。この土地余ってるんだもん」


 東の国は王族もなく、オレが生きてる間の土地だ。だったら獣人が集まって暮らせばいい。国が機能すれば、彼らを保護することも簡単だし。他国にいる獣人も移り住んでくるかも知れない。同族同士って、価値観が近いから暮らしやすいと思うんだ。


 説明して見回すと、アーサー爺さんが発言を求めた。


「獣人の国を作るのは賛成ですが、どうして東の国を選ばれたのか。この爺に教えていただけますかな? キヨヒト殿」


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る