241.東の国を占拠せよ(8)
こういうところ……きっと敏腕宰相なんだろうな。隠居しても周囲が放っておかないと思うぞ。まずオレの考えを否定しない。そのうえで理由を教えろと遜って喋らせる。内容に問題があればそこから突き崩して、反論へもっていく自信があるんだ。
「簡単さ。東の国は寒い。獣人って寒さに強いから暮らしやすいはず」
「獣人が寒さに強い?」
初耳だぞ。そんな態度のジャックへ、オレはきょとんとした。え? 誰も気づいてないのか? 後ろでぺたんと座って風呂の順番を待つ奴隷達を指さす。
「この寒い国で、冷たい石床で生活していられる。しかも風呂はなくて水浴びだぞ? オレなら死ぬ自信ある」
「キヨ、言いたいことはわかりますが奇妙な自信を振りかざさないでください。迷惑です」
「我が君をそのような目に遭わせたりしませんぞ!!」
「いや……その前に逃げるよ?」
シフェルが叱ったが間に合わず、何やらベルナルドが滾っている。大変申し訳ないが、仮定の話だぞ。オレが実際に石床で水浴びしてないからな? どうどう……落ち着け。
手で落ち着くよう指示すると、椅子を蹴って立ち上がったベルナルドが慌てて座り直す。いきなり立ち上がるから、奴隷の一部がビビってるじゃん。
ぺたぺたと音を立てて歩くチビドラゴンに興味を示した獣人の子が、スノーに手を伸ばした。だが触れる前に手を止めたので放置する。嫌ならスノーは影に逃げるだろうし。
「とにかく、過酷な寒さの中で生存できる。建物をそのまま譲渡して明け渡してくれたら、彼らもすぐに文化的な生活ができるだろ? 今まで蔑んで一方的に虐げたんだ。そのくらいのお詫びはして欲しい」
「獣人を虐げたのは我が国だけではありませぬが」
「そうそう。だから皆で痛みを分かち合うわけ。この国にいた人間はすべて、他の国が分配して受け入れる。引っ越してきた彼らに土地を与え、住処を用意し、貧民にならないよう手配する……ほら、平等じゃん」
「キヨにはまず常識から」
「いや、悪くないと思うぞ」
否定しかけたシフェルに対し、レイルはオレの意見を肯定した。確かに無茶を言ってる自覚はある。だけど、全員が痛みを分かち合うのは大切だ。誰かに押し付けるんじゃなくてさ。
「まあ、金に関してはオレの預金使ってもいいんだけどね」
苦笑いしながら付け足した。お金に関する痛み分けじゃなくていい。土地を提供したり、使わない空き家や農機具を譲るんだっていいじゃないか。
「この世界で1番地位が高いのは聖獣なのに、どうして獣人が嫌われるのか――まずそこに疑問を持ってよ」
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