241.東の国を占拠せよ(9)

 獣と人、両方の字を持つ種族だ。人の姿をして、獣の特性を持つ。ならば聖獣に近いのは人間より、獣人じゃないか?


 強引な理論かもしれないが、嫌われる理由がわからない。外見上の区別はつかないし、彼らは大人しかった。野犬より危険度が少ないのに、国がないだけで迫害されるなら……国を与えるのは間違ってるか?


「キヨ、わかっていますか。これはジャックの故郷を奪う話なのですよ」


 逆の視点からこうやって話してくれるの、とても助かる。考えが及んでいない部分を指摘してくれたら、もっといい案が浮かぶはずだ。


「ジャックも、そう思う?」


「おれは家を捨てた口だから、あまり関係ねぇけど……他の連中は違うだろうな。自分が住んでた家を奪われたって、逆恨みするさ」


「なるほどね」


 だったら、残された方法は危険なものになる。成功するか分からない。まあ、失敗してもなくすのはオレの名声と食材くらいか。


「オレが考えた方法は2つあった。1つは今話したやつ、残りは……東の国を一度消滅させること」


 貴重な調味料や食材が失われるのは、本当に心が痛い。誰かが積み重ねた苦労の上に、あの味があると思うから。でもオレは自分のエゴだけで動く。目の前で虐げられた獣人のためでもなく、世界を変えたかった。


 オレが平和な日本から送り込まれた理由、どうせここにあるんだろ? カミサマ。


 考えた案を口にするたび、常識人のシフェルは「常識がない、考えがおかしい」と指摘する。これはノアも似ていて、つまり彼らの考えはこの世界の常識だ。公爵閣下から、平民より地位が低い傭兵まで。その常識は揺るがなかった。


 だが頂点である王族の地位から追われて、傭兵と並ぶ情報屋まで落ちたレイルは、オレの考えを肯定することが多い。これってさ、世界が変わろうとしてる時期なんじゃないか?


 いわゆる意識改革みたいな感じだ。新しい考えが広がりつつあり、古い考えがそれを押し込める。その窮屈さを解消して、新しく殻を割った世界が成長するのを神は望んだ。そういうこと。


 オレはその殻を割るために、内側に閉じ込められたひよこの嘴だった。突くための武器であり、今後も世界を牽引していく役目。堅苦しく考えると面倒くさいが、要は前の日本の記憶を活用して、オレの好きにやれって意味だ。


 長寿な竜属性にされたのも、きっとここに理由がある。変革には長い時間が必要だから、できるだけ長くこの世界に影響を与えられるように。

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