17.教育は情熱だ!!(6)

 時間がもったいないので、乾パンをひとつ口に投げ入れる。


 昨日壊した窓枠がそのままの部屋は、2日前に足を壊した机が横倒しだ。かろうじて無事な椅子を机に見立て、床に座って食べる事態に陥っていた。


 オレ用の予算はどうなった? 部屋を直してもらおうとシフェルに尋ねたのは5日前だが、返答は「まだ壊れるでしょう。最後に直しましょう」という合理的なものだった。最後に直すのはいいが、その『最後』が気にかかっている。


 もしかして、オレが出て行って壊れなくなったら直すという意味じゃないか?! それじゃ、オレは壊れた部屋で寝泊りするしかないわけで……。


「……もしかして、計算が出来るのか?」


 恐る恐るといった風情でライアンが聞く。何を問われたのか、他のことを考えていたオレは反応が遅れた。口の水分を怖ろしい勢いで吸う乾パンを飲み込み、ミルクらしき何かを飲み干す。


 このチームのオカンであるノアが新しいミルクを用意してくれた。


「計算、できるけど」


「すげぇな!」


 賞賛するジャックと驚いたライアンの顔を交互に見て、干し肉を噛み千切る。うん、硬い。残りはわずかだけど、サシャみたいに裂いて食べた方が楽かも。サシャがぼそりと口を挟んだ。


「異世界人は知識があると聞くが、計算も習うとは」


 勉強を教えてくれるリアムも驚いていたのを思い出す。どうやら計算は高度な教育に分類されるようだ。そういえば、買い物をしたときにライアンは店の人に計算を任せて誤魔化されそうになっていた。


 4本足が3本になった椅子が傾かないように気をつけながら、ノアに礼を言ってミルクに手を伸ばす。別に床に置いてもいいのだが、コップを床に置くのは行儀が悪いとサシャが嫌がるのだ。だが、誰も椅子を直そうと考えないところが……壊す専門家の彼ららしい。


「それで、読み書きはどこかで習うんだろ?」


「読むのは話せれば出来るぞ」


「文字が書けるのは貴族くらいだ」


 話を元に戻そうと学校の存在を探っていたら、奇妙な言葉が聞こえてきた。意味がよくわからない。


 常識が通用しないのは理解できてきたし、この世界の常識やらマナー、歴史もだいぶ習ったので詳しくなった。それでも基本的な部分で驚く状況が続いているのは、彼らにとって基本すぎて教える対象から外された事項がこうして発覚するからだ。


 なんで『話す』と『読む』がイコールになるんだ??

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