17.教育は情熱だ!!(5)

 早朝から奇襲ありの戦闘訓練、携帯食との格闘タイムを経て午前中の勉強、昼飯抜きで爆睡(昼寝)、午後は作法や歴史といった教養の詰め込み、夕方から魔法(実践含む)、夕食は豪華なコース料理でマナー勉強、ここは風呂入る習慣がないので就寝――この生活がすでに10日近く続いていた。


 書き出したメモを見つめて絶句する。なに、この分刻みのスケジュール。過去のオレに見せてやりたい、ニートがいかに恵まれた職業?だったか。


 起きてる時間は食事、戦う、勉強で終わるし、睡眠時間も意外と少ない。


「……成長を妨げる要因ばかり」


 干し肉を口に放り込む。朝食はいつも戦闘訓練後なので、全員が絆創膏を身体中に貼ったら食べ始める。湿布のように臭いがないのは救いだった。これで湿布臭かったら、悲壮感が漂いそう。


「何をわけわからないこと言ってんだ? それだけの教育を施されるなんて、幹部候補だぞ」


「そうそう、勉強出来るのは幸運なんだぞ」


 ライアンとジャックの言葉を少し考えてみる。今の言い方だと、教育は一部の人しか受けられない特権みたいに聞こえた。


 歯を折りそうな干し肉を口の中で転がしながら咀嚼を繰り返し、ようやく口の中が空になった。最近は食べ方が上手になったのか、顎が疲れにくくなってきた。単に慣れただったりして……いや、それはちょっと悲しいかも。


「だって『学校』とか行くだろ?」


 貴族がいるなら平民もいるだろう。傭兵であるジャック達は平民で、他国出身の移民とかの可能性もある。それでも『異世界人の心得』を読んだのなら、読み書きは習ってる筈だ。


「『がっこう』って何だ?」


「へ?」


 間抜けな声が零れた。大きく顎を開いた状態になったオレの口に、サシャが乾パンを突っ込む。咄嗟にもぐもぐ噛んで、硬さにミルクもどきを流し込んだ。無理やり飲み込むまで会話が途切れるが、同じ状況にある彼らは気にしない。


 食べ終えるとひとつ息を吐き出した。なんだろう、栄養補給の筈の食事で体力が消耗する現状って……。


「うーん、読み書き習う場所だよ。計算とか」


 顔を見合わせたライアンとジャックをよそに、ノアは肩を竦めた。サシャは話に興味がないのか、ナイフで裂いた干し肉を作っている。食べやすいように工夫した結果らしい。さきいかに似てる細い干し肉を横目に、オレは彼らの反応を待った。

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