17.教育は情熱だ!!(7)
「ごめん、わかんない」
素直に尋ね直したところで、3本足の椅子が傾いた。さすがの反射神経でそれぞれがコップを掴み、乾パンだけが床に零れ落ちる。硬い音を立てた乾パンを拾い「3秒ルール、3秒ルール」と呟いて埃をはたく。
子供の頃、親とやらなかったか? 落ちて3秒以内に拾ったら食べてもOK! という、何の科学的根拠もない迷信みたいなの。多少地方色はあるけど、近所の子も普通にやってたな。
机代わりの椅子がなくなったので、右手のコップを床に置いた。キレイ好きなサシャが渋い顔をするが、さすがに注意まではしない。代わりになる台が手元にないのだから、仕方ないだろう。
「3秒ルールって、何だ?」
「いや、先に読み書きの説明して」
「キヨが呟いたくせに」
埃をはらった乾パンを口に放り、唾液を吸われながらミルクで喉へ流した。ごくんと無理やり飲み込んだら、喉の奥で違和感がある。変な咳をしながら、残ったミルクを飲み干した。
「順番にいこう。まずは『話せると読める』の説明から。そしたら、『3秒ルール』の説明する」
混乱してきた状況で、強引に話を分割する。納得したのか、ノアが説明役を買って出た。
「話せる言葉は読める。これは世界のすべての言語に適用される。2ヶ国語話せれば、2ヶ国語読めるという意味だ。逆に話せない言葉は読めない」
端的に事実を語るノアは、サシャが引き裂いた干し肉をつまんで口に放り込んだ。咀嚼する回数が少ない。うん、次からはオレも裂いて食べよう。
「異世界人はすべての言語が話せるんだっけ?」
「そうだ」
「じゃあ、オレはすべての言語を読めるのか」
さっきのルールによれば、そういう意味だろう。これは便利だ。すごいチートだった。だって、過去のオレは英語読めなくて話せなくて書けなかったんだぞ? 世界共通語なのに。大半の日本人が同じだろうけど、やっぱり話せたらいいなと思う部分はあったわけで。
「ああ、あと異世界人は書ける奴も多い」
「ん?」
書ける奴が多いってことは、この世界では
「読めたら、そっくり同じ形を書けばいいんだから書ける、よな?」
ジャックが首を横に振った。ライアンがサシャの干し肉に手を伸ばし、大量に掴みすぎて手を叩かれている。なんか欲張りだな、ライアン。
「普通は読めても書けない」
「オレのいた世界だと、読めれば書ける人が多いから理解しがたいけど……そういうものか」
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