184.二つ名が役立つなんて(2)

「その厨二過ぎる二つ名、オレは認めてないぞ」


「そうか? カッコいいじゃん」


 にやにやしながら登録したレイルに言われたくないな〜。くそっ、お前が情報屋の赤い悪魔だってバラすぞ! やらないけどな、情報屋がどれだけ危険な職業か知ってるからさ。


 ゲームとかで真っ先に口封じされる役だよ。可哀想……と同情するとこだが、コイツは強いから返り討ちにするけど。


「チュウニって何だ?」


 やっぱり通じなかったか。サシャの不思議そうな繰り返しの言葉が、完全にカタカナになってる。くそっ、この場面で理解してくれるブラウがいないのは辛いな。


 ぐしゃぐしゃにされた髪を、ブラシを取り出したノアが直してくれる。オカンのスキルが凄いいい仕事してるけど、赤いリボンでポニーテールは間違ってる気がした。


「ノア、どうしてリボンが赤なの?」


「死神の血の色をイメージしてみた」


「ああ……っ、うん、そう?」


 オカンは、アーティストにジョブチェンを狙ってないか。漫才っぽいやりとりが続く中、ジャックが不思議そうに呟いた。


「なあ、どうして死神が嫌なんだ?」


「だってそんなに殺してない。オレが殺戮者みたいで聞こえが悪いだろ」


「自覚ないみたいだが、めちゃくちゃ殺してるぞ」


「……現実を突きつけないで」


 死神と呼ばれるほど殺した自覚はない。でも人を殺したのは、この世界にきた初日だった。レイルやユハに依頼されて、北の国のひとつの部隊を全滅させたのもオレ。西の自治領でも殺したっけ。


 突きつけないで欲しい。オレだってこの手が綺麗だなんて思ってないけど、リアムに触るには自分を誤魔化さないと手が伸ばせなくなる。


 黒髪に象牙色の健康的な肌、青く真っ直ぐな瞳。彼女は文字通り箱入り娘で、お嬢様育ちだ。オレは一目惚れだけど、彼女は多分違う。いつか他に好きな奴ができた時、天秤にかけられるんだぞ。死神とそのイケメンを! 


 なぜイケメンかって? ブサイクが彼女の隣に並ぶのは許さん! リアムが止めても抹殺する。それはさておき、死神とイケメンなら絶対にイケメン取るだろ。くそっ、想像だけで泣けるわ。


 ぐすっと鼻を啜ったオレの目が潤む。あたふたする傭兵達がなんとか機嫌を取ろうと慌て出し、その様子をみた南の兵士がざわめいた。ヒジリがゆらゆらと苛立ちをこめて尻尾を揺らし、コウコが威嚇音を出すに至り、ようやくオレが立ち直る。


「取り乱しちゃった」


 自嘲をこめて呟くと、内心での恋心の暴走を知らぬ彼らは、慌てて首を横に振った。きっと彼らの中で「キヨは思ったよりナイーブ」と勘違いされただろう。

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