150.大層な名前の指輪を外したい(3)
それまで黙って控えていたベルナルドが、顎髭を指先でいじりながら口を開いた。きゅっとリアムの指先がオレの袖をつかむ。咄嗟に解いて手を握り直した。正解だったらしく、不安そうなリアムの表情が明るくなる。照れた様子で空いた逆の手で黒髪の毛先を弄り始めた。
「お話中失礼いたします。私が知る話では、支配者の指輪は相手を選ぶ。器量が足りねば破滅させ、気に入れば望むものを手元に呼び寄せる――御伽噺としてこの世界の人間なら幼子も一度は聞く話です。その指輪のデザインは多種多様、悪用を恐れた過去の権力者により混乱させられました」
どの指輪が本物なのか、わからなくしようとしたのだろう。過去に指輪を所有した人たちの苦労が窺える。
一度言葉を止めて、ベルナルドは胸元を押さえた。心臓か呼吸器系の持病でもあるのか? 身分差があるとはいえ、老人を立たせっぱなしの現状に気づいて手招きした。心許すかは別だが、座らせるくらい構わないだろう。
「つらいなら、座る?」
リアムが座る右側ではなく、左側を叩くとベルナルドは目を見開き、首を横に振った。しかし足元に近づいて膝をつく。
「我が家は代々皇帝陛下のおそば近くで仕えてまいりました。現皇帝陛下の祖父であり、中央の国を戦乱から救った英雄であるお方の指輪の絵が残っております。それゆえに私は指輪の存在を知っておりました。この年になって目にするとは驚きましたが……」
「おれがキヨに指輪を渡したのは――試したんだよ。いきなり異世界から降ってきて、突然真逆の価値観の世界で苦労したくせに、おれや傭兵連中を『仲間だ』なんて言いやがる。この素っ頓狂な考えを持つ奴なら、
やめて、重いから。レイルが告げた救う相手は彼自身じゃなくて、この世界の孤児や傭兵の存在を指してる。底辺に生きる彼らを救う……大層な話に聞こえるが、実際にオレは地位のない一般人どころか化け物扱いの異世界人からのし上がり、皇帝陛下のお婿さん候補だった。
前世界の『豊臣秀吉』なわけだ。そりゃ期待されるだろうけど、重い。無意識に力を込めた指先に、ぎゅっと握り返すリアムの温もりが伝わった。顔を向けると、青い澄んだ瞳と視線が合う。そらさずに微笑んだリアムの姿に、右手の中指から外せない指輪を撫でた。
支配者の指輪が本物で、オレが英雄として頂点に立つとしたら……リアムを今の地位から解放してやれる。美しい黒髪を伸ばして、可愛いドレスを着せて、妻として迎えることが出来るんじゃないか?
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