347.新生活が順調すぎて怖い(1)

 北の国のシンに尋問のお願いをしたところ、やっぱり残酷な方法をよく知っていた。専門の人を派遣してくれたので、お礼に官舎の部屋をひとつ用意する。いつでも泊まれるようにしておくと言ったら、金貨より喜ばれてしまった。安上がりな兄で助かる。


「キヨ、そっち行ったぞ」


「了解、見えてるよ」


 足元を走り抜けようとした子どもの背後に飛び降り、振り返った彼の首にナイフの刃を当てる。喉を動かせば危険なギリギリの位置だ。


「こ、降参です」


「はいよ」


 ぺちんと赤いペイントをつけて終了扱いにする。このペイントが付いたら死亡と同じだった。オレの訓練よりだいぶ甘い。だがまだ未熟な子どもで万能結界もチートもない。二つ名持ち相手に実弾訓練は可哀想だ。というか、初日は決行した。


 半数が瀕死の重傷になったので、危険と判断されて中止。その後絆創膏もどきとオレの治癒魔法で回復させたものの、毎日では大変だ。ましてや、オレが留守にする日はどうする? サシャの治癒じゃ、ここまで重傷者が多発すると間に合わない。仕方なくペイント弾で妥協した。


 飛んできた弾をひょいっと避ける。


「う、嘘だろ!」


 叫んだ青年に撃ち返した。ペイント弾は引き金が軽くて変な感触だ。騒いだ彼の胸に赤い色が広がった。


「はい、終了」


「お疲れ様でした」


 礼儀正しく下がる。ちなみに、倒されるのが早すぎると罰ゲームがある。掃除、洗濯、食事は当番制になっているが、一番の重労働は食料の受け取り係だった。


 これだけの人数で、人の数倍食べる連中の食材だ。それは量も種類も大量だった。備蓄も兼ねているので、常に先入先出を行う。外から運んだ食料を並べ、すでに並んでいる備蓄を食事用に取り出すまでが罰ゲームだった。


「え? 俺までか、くそっ、今日は抜けたと思ったのに」


 悔しがる茶髪の子が「ぐぁああ」と吠える。昨日も罰ゲームだったらしい。仕方ないよな、ある意味公平な決め方だ。傭兵として考えたら、常に強い者が弱い者を使う。わかっているから、彼も文句を言いながら代車置き場へ向かった。


「あと何人?」


 残った子どもの数が半数を切ったら朝の訓練は終了だ。


「ん? 15人かな」


 時刻を確認し、「へぇ」と感心した。最初は15分もしないで半分を切ってたのに、今は30分経っても半数以上残っている。やっぱ、戦闘は訓練した時間に比例して強くなるんだな。脳筋な考え方だが、シフェルは正しかった。


 茂みの横を通ったオレの後ろに飛び出した子が振ったナイフを、無造作に指で止める。刃を掴むには力と速さが必要だった。この技術、レイルから教えてもらったんだっけ。懐かしく思いながら、驚いた顔をする子にペイント弾を撃ち込んだ。


「こういう時さ、油断しちゃダメ。慢心も大敵だ。防がれる可能性を考慮して、次の武器を用意しておけよ」


 言いながら、シャツで隠れたナイフや拳銃を披露する。こうやって戦い方を教えた。この世界から戦争がなくなっても、人を殺す奴がいなくなることはない。銃刀法があった日本がそれを証明していた。


 やばい肩書きの人はどこからか銃を手に入れるし、警察官は職務の拳銃で自殺したりした。頭のおかしな奴が包丁を振り翳して、一般人を襲う事件もあったぐらいだ。暗殺や反逆はなくならないだろう。その暴力行為に対抗する方も、暴力を知り尽くしていなければ負ける。


「ありがとうございました」


「はい、お疲れさん」


 残り12名で、ようやく終了の合図が来た。今日の戦闘は36分だ。ほぼ毎日新記録更新だと、成果が目に見えるな。身を伏せていた連中が出てきたところを肩を叩いて追い抜く。そんなオレの頭を撫でようとするの、マジでやめろ。背が高いからって勝ったと思うなよ!! まだこれから成長期なんだからな!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る