262.大惨事って言われてもなぁ(2)
天誅? 間違いなくブラウだ。そもそも青い猫なんて他にいないと思う。いくら異世界でも青は驚いたもんな。ぼんやり聞きながら、口元を緩めた。
「釈放されたら、すぐ動くから」
「服はこっちに運ばせる」
王族としての正装を手配したレイルに頷いた。着替えて、北の王族として謁見を申し出る。その場に各貴族家が集まるはずだ。当然、問題のとろり蒟蒻もね。そこで「ぎゃふん」と言わせてやろうじゃないか。
悪役の笑みを浮かべてレイルと目配せしあった後、ベッド脇の椅子に腰かけた……ら、何かが尻の下にいた。
『ぎゃふん』
「お前が言ってどうする? つうか、一応お約束だな」
感触で気づいたが、青猫ミニバージョンだ。家猫サイズに縮んだ青猫は、潰されたカエルのように手足を伸ばして敷物になっていたが、慌てて飛び起きた。腰を浮かせたオレの尻下から逃げ出し、降りた床の絨毯に寝転ぶ。優雅に毛繕いを始めた。
『僕は頑張ったんだよ? ちゃんと敵の本拠地を狙って、間違えて隣の領地を叩きのめしたし』
間違えたかどうかはともかく、普通は隣の領地に攻撃したら「ちゃんと」とは言わない。この辺の軽口はブラウ特有だ。
「ヒジリはどうした?」
『ここぞ』
当然のように足元からご出勤。のそっと顔を見せた黒豹は、邪魔な位置で毛繕いするブラウの首根っこを咥えて、ぽんと放り投げた。当たり前のようにオレの足元、ブラウがいた位置に陣取る。この辺の容赦のなさ、ブラウに対する冷たさは出会った頃から変わらない。
「ご苦労さん、頼んだ作業終わった?」
『もちろんだ。我は青猫より優秀だからな』
ふふんと得意げな黒豹の耳の間を撫でて、ぐるっと手を回して顎まで一気にもみほぐす。両手を使って全力でヒジリの艶がある毛皮を愛でた。気持ちいい。
「そうしてると、本当に大きな猫と飼い主みたいだ」
呆れ顔のレイルが呟き、オレはにっこり笑って上を指さした。
「レイル、そんな話してる時間ないだろ? 早く準備して、リアムへの手回しもよろしく」
「了解。人使いの荒い奴だ」
「支払いなら出世払いしてやるよ。きちんと出世させてくれよ?」
にやにや笑いながらの言葉に、赤い前髪をぐしゃりと乱したレイルが肩を竦めて踵を返す。ひらひらと手を振って出ていく彼は、門番に小金を落とした。何やら命じたが渋ったらしく、また金を追加する。途端に態度の良くなった門番の肩を叩き出て行く。
賄賂を渡して融通を利かせてもらう瞬間を目撃してしまった。なんか、悪役っぽくてカッコいい。あれは憧れる。さりげなく渡すのがコツだろうな。うーん。暇に飽かせて、オレはしばらくヒジリとブラウ相手にレイルの賄賂ごっこを繰り返して遊んだ。門番が苦笑いしていたが、無視だ無視。
師匠ごっこと名付けた遊びに飽きる頃、オレ宛に衣服が届く。門番が見ないフリしたお届け人から受け取った服に着替え、収納から玉を取り出して身に着ける。さあ、戦いに赴こうか。
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