262.大惨事って言われてもなぁ(3)

 檻から出るなり、駆け付けた侍女は中央の国の制服ではなかった。北の国から連れてきたようで、少し言語も違う。オレは自動翻訳で通じるけど、日本人が話す英語みたいな訛りがあった。たしかシンが使ってた言語って、これだっけ? 思いだしながら話しかける。


「こっちの言葉の方が楽?」


「あ、はい。お気遣いありがとうございます」


 イントネーションが直る。言語が切り替わっても、オレは違和感を覚えないのが便利だった。自動翻訳、時々バグるけどほぼ万能チートだ。最悪の場合、通訳で食べていけるもんな。


 嬉しそうな侍女が手にしたトランクに似た箱を開いた。一瞬で机の形に組みあがるのは、バネみたいな仕組みがあるらしい。あとでシンに教えてもらおう。机の上部はそのままトランクの荷物が入っている。ビロードみたいな布に包まれた貴金属が大量に並んでた。


 もしかして?


「第二王子殿下に初めてお目通りいたします。王宮侍女のリイサと申します」


「ご丁寧にどうも」


 受け答えに困り、曖昧な返事をしてしまう。くすっと笑った彼女は牢の廊下にも関わらず、オレの髪を手早く結い始めた。くそっ、身長差……屈まなくてもちょうどいいって、地味に屈辱なんだが?


 手早く金髪を結い上げて、ぱたぱたと顔に化粧を施される。薄化粧の類らしく、あまり色は使わなかった。それからお飾りの簪を2本ほど髪に差し込み、帯の高さを調整した。離れた位置で確認し、首飾りを交換する。この辺の着飾るマナーやルールは、現地の人にお任せするのが一番だった。


 オレのセンス、当てにならないし。珍妙な恰好で余計な恥かく心配ないのは助かる。


「完璧です。お美しいですわ、第二王子殿下」


「ありがと、それと名前はキヨヒトでいいよ」


「承知いたしました。キヨヒト王子殿下。ご尊名を口にする栄誉を頂き、感謝申し上げます」


 名前を教えたら嬉しそう。鏡を見て自分の姿を確認し、「お美しい」の意味を理解した。どう見ても美少女系の仕上がりなんですけど? 女装用のドレスじゃないのに、オリエンタルな中国美少女風……。


『主、これって美少女戦士系?』


 同じことを思ったけど、腹が立つ。横にスリットが入ってるけど、まあズボンもあるから……あれだ。ベトナムだっけ? アオザイってやつに似てる。


「これ、シン兄さまの指示?」


「よくお分かりで。王太子殿下の仰られた通り、聡明でいらっしゃいますのね」


 ああ、うん。やっぱりね。シン……後で覚えてろよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る