第26章 世界征服って悪だろ
164.被る猫は自前です(1)
すたすたと宮殿内を案内もなく歩く。正確には黒豹の背中に乗って移動中だった。戦闘訓練以外で歩いてない気がする。これはまずい、身体が鈍ると困るな。
「あ、エミリアス辺境伯閣下ではありませんか」
「うん? ああ、近衛騎士のランズロア卿」
「私の名を?」
話しかけてきたくせに、驚いた顔をされて首をかしげる。名前間違えたわけじゃないし、何だろう。彼の後ろを歩いていく青年に声をかけた。
「ちょっと失礼。ロズベルグ君、悪いけど厨房からクッキーを運んでくれない? 皇帝陛下が楽しみにしてるから。オレもすぐ行くって伝言もお願い」
拝む形で両手を合わせれば、侍従の青年は快く引き受けてくれた。ここの侍女や侍従、執事に至るまで本当に優しい人多いよな。オレにもちゃんと敬意を持って対応してくれるもん。プロフェッショナルって、こういう人たちを言うんだと思う。
っと、いけね。放置してしまった騎士に向き直った。失礼かもしれないと、ヒジリの背から降りる。とたんに視線の高さがさらに合わなくなってしまった。この背はちゃんと伸びるんだろうか。竜属性の成長が遅いせいで、不安なんだよ。
「ランズロア卿?」
「あ、えっと。その……私の名を覚えておられると思わなかったもので驚いてしまって」
「近衛騎士で、準男爵位を持つ方のお名前も知らずに、守っていただくなど失礼でしょう。きちんと覚えておりますとも」
にっこり「いい子バージョン」で対応しておく。宮殿内でオレの印象は高められるだけ高めた方がいい。突っかかってこないなら、貴族だってちゃんと相手してやるぞ。貴族の名や地位をすべて丸暗記したのは、相手に侮られないためだけど、味方も増やせるんだよ。特に上位貴族に嫌がらせされたり馬鹿にされた伯爵以下の人は、上位者が認識してくれるだけで感動する。こうやってね。
今日は淡い金髪を後ろで結んだだけだ。大量のピアスを晒し、半ズボンにシャツという軽装だった。早朝の訓練が終わり、午前中のお勉強も終わらせた。午後は焼き菓子を作ったので、リアムと食べるつもりでいる。
「そのような貴族様もいらっしゃるのですね」
「うーん、生まれついての貴族ではないので……オレに努力できるのは、このくらいしかありません。自分の部隊も傭兵でしょう? 貴族らしく生きようとしても、すぐ化けの皮が剥がれて笑われるだけですから」
好感度の持てるお兄さんと話すオレの指先を、噛んだり舐めたり、治したりする聖獣様は空気を読まない。本当にこういうとこ、猫科だよな。ブラウほど自由じゃないけど。
「皇帝陛下とお茶会をされるのですか? お呼び止めして申し訳ありません」
「いえ、何かあったのでしょう?」
確信を持って問い返すと、彼は困惑しながら口を開いた。
「実は……」
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