218.追いかけっこと尋問ごっこ(1)

 マロンの奴、勢いよく駆け出したけど……あんまりに可哀想だから、見つけられなくても一緒に眠ってやろう。


 あの場面で「一緒の部屋で」と言った。一緒のベッドや隣でという発想がないあたり、過去のアイツの不遇がよく理解できる。やっぱり顎が砕けるまで、前の主人を殴った後で軽く手足を落としてやりたいな。


 物騒な妄想を頭の中で繰り広げるオレを乗せ、ヒジリは軽やかに森を走り抜ける。そういや西の飛び地で追いかけっこしたときも、黒豹は早かった。身のこなしが軽いんだ。木も登れるって卑怯くさいよな。逃げ場がないじゃん。


 そんなヒジリが追いついた先で、レイルがナイフ片手ににやにやと笑う。足元のシフェルはしっかり拘束されていた。


「すげぇ! もう捕まえたのかよ」


「情報屋だぞ。誰より最初に捕まえないと恥ずかしいだろ」


 シフェルがもがくも、しっかり縄が食い込んでいた。よく見ると猿轡までかましてる。かなり上級者向けのプレイだった。少なくてもオレには無理だ。


「シフェル、リアムに連絡しようとした?」


 そこは隠すつもりがないようで、大きく頷いた。オレもここは問題ないのでスルー。


「何か、余計な話をチクろうとしたよね?」


 特にオレが噛まれたこととか、聖獣と抱き合ってたとか。その辺じゃない? にっこり笑って尋問を続けると、シフェルは目を逸らした。くいっと顎に手をかけて視線を合わせ、首をかしげる。


「どうしたの、シフェル。汗かいてるみたいだね。熱があるなら、汗をかいた方がいいよ」


 言いながらベルトからナイフを抜く。びくりと肩を震わせたシフェルが勢いよく首を横に振った。


「やだな、そんなに怯えないで。ちゃんとレイル仕込みだから、オレだっていつまでも子供じゃないぞ。今回の報告の内容を教えてくれたら、何もしないからさ」


 くすくす笑って、冷たい刃をぴたりと頬に当てるとがくりと項垂れた。どうやら陥落だ。自分が教えた技術で落とされるのは、どんな気分だった? かつての教師であるシフェルの縄を解いてやる。


「我が君、何をしておいでか。尋問の手並はメッツァラ公爵殿直伝ですかな?」


 少し遅れて駆けつけたベルナルドが、額の汗を乱暴に拭う。こういうところ、侯爵じゃなくて騎士だった頃の癖がでてるよね。


「うん、もう終わり。レイル、これ報酬だ」


 金貨の入った袋を渡すと、中を覗いて眉をひそめる。咥え煙草に火をつけて吸い込んでから、大きく溜め息をついた。


「お前、金はもっと大切に使え。多すぎだ」


「じゃあ、お釣りは孤児院に寄付してよ」


 多めに渡して文句を言われるとは思わなかった。オレにしたら使わない金だし、収納で殺すより外で使って生かす。その方が金として正しい使い方だろ。

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