28.聖獣に噛まれるだけのドMなお仕事(3)

「傷が治ったなら、安心して手合わせが申し込めます」


「そうだな、官舎の先に芝生がある。そこで行うがよい。余も観戦するとしよう」


 お茶の道具を片付けるもの、案内の先触れに走るもの、話を聞いていた侍女達の行動は早かった。薔薇のゲートの先に控えていた騎士達が駆け寄り、リアムの警護手配をする。


「まさか、これから?」


 お茶してたし、勉強の途中だし? そんなオレの疑問は逆に不思議そうな顔をしたスレヴィとリアムに潰された。


「「当然だ(ろう)」」


 当たり前なんだ? 逃げられぬまま、早朝訓練によく使われる芝の広場へとドナドナされた。






 騎士団の剣を構えたスレヴィと向かい合い、オレはナイフを構えていた。なぜこうなった。そんな想いが過ぎるが、周囲を傭兵や騎士達に囲まれた今、逃げ場はない。


「ルールは降参するか戦えなくなった時点で終了。致命傷と銃は禁止だ」


 審判役にジャックと騎士が1人立候補した。公平なジャッジを求めるためにリアムが提案したのだ。心配そうなノアの横で、仲間に加わったばかりのユハがおろおろしている。逆にヒジリは近くの木の枝で寝そべっていた。まったく心配する様子はない。


「では、はじめ!」


 わいわい騒がしい傭兵と比べ、騎士は姿勢を正して落ち着いていた。近衛隊長の兄であるスレヴィの実力を知るから心配していないのが半分、皇帝陛下であるリアムの臨席も影響しているだろう。


 普通に考えてもナイフは攻撃範囲が狭く、子供の腕ではさらに不利だ。先手の利を譲る気なのか、スレヴィは動かない。ひとつ深呼吸して、オレは地を蹴って走り出した。一気に距離を詰める。


 目の前に飛び出した子供に横薙ぎに振るわれた剣をナイフで受けた。キンと甲高い音がして、踏ん張った足が押される。だがぎりぎり弾き飛ばされずに残った。

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