69.戦場に遅刻したオレは必死で挽回する(2)

『最速で5分ね。落とさなければだけど』


「じゃあ、落とさないようにお願い」


 両手を合わせてお願いポーズをすると、コウコがくすくす笑いながら了承してくれた。首から肩にかけて絡んだ赤い蛇は、金色の瞳で傭兵を見つめる。


『あら珍しい、魔力なしなのね』


 魔法陣が作動しなかったのは、彼に魔力がなかったためか。今までどうしてたのかは後で聞くとして、レイルに魔法陣を示した。


「というわけで、最初に転移してくれ」


「お前は賢いから苦労するぜ? もっと手を抜いて楽に生きろ」


 忠告らしい。レイルは煙草の火を消すと、吸殻をポイ捨てして転移魔法陣に乗った。すぐに彼の姿が消える。ジークは傭兵と何か話しているが、オレはポイ捨ての吸殻を回収していた。やっぱり捨てるのは気分悪いし、見なかったフリも出来ない。


 戦いが終わったらレイルにたたき返してやろう。


 ここで彼がやられてしまうフラグは立たない。全員を犠牲にしても逃げ延びるタイプだから、変な心配は不要だった。どうせ戦いが終わった頃に、けろっと現れる奴だ。


「ジーク、早く」


「わかった。頼んだぞ、ボス!」


 ひらひら手を振って見送ると、ジークが転移した後の魔法陣を手早く巻いて収納した。残された彼は不安そうだ。気持ちは理解できる。ジークを無事に戦場へ送るために、体よく引き剥がしたと解釈されてもしょうがない状況だった。


 手ぶらになった状況で、コウコへ声を掛けた。


「悪いけど、戦場まで送ってって」


『構わないわ。それで、目的地は?』


「……え、知らない」


 そういえば、東の平原? 草原? みたいな曖昧な表現しか聞いてない。普通は転移魔法陣の間を移動するだけだから、問題ないんだろう。


「おれが知ってる」


「助かった。地図で示して」


 慌てて地図を引っ張り出すと、迷いなく一箇所を指差した。その場所は確かに山脈の間の開けた土地のように見える。ほっとして、隣のコウコを振り返った。


「これで平気?」


『ええ。大きくなるから乗って』


「頼むわ」


 コウコが一瞬で大きくなる。どろんと煙が出るなんて演出を期待してたが、まったくなかった。瞬きした直後に大きくなってた感じで、非常に残念だ。


「えっと、名前なんだっけ?」


「マークです」


「マーク、こっちきて」


 自分の後ろに座らせて、コウコの鱗を撫でる。艶々した赤は綺麗だが、滑りそうないやな予感がした。

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