69.戦場に遅刻したオレは必死で挽回する(3)

「コウコ、落ちないよね?」


『魔力で固定するから平気よ』


 コウコの尻尾が大きく揺れると、ふわっと持ち上がった。遊園地で乗った遊具に近い、あの浮遊感が襲う。きゅっと足で締めるようにすると、後ろのマークが腰に手を回してきた。落ちたくない感情はわかるが、これだとお前が落ちたらオレも道連れじゃん!!


 振り返ると泣きそうを通り越して、マジ泣きしてたので……手を離せと言えずに諦めた。魔力がないなら、オレより怖いだろう。


 重力なんて無視した動きで浮き上がったコウコに乗った旅は、一言で快適そのものだった。いわゆる長時間バージョンの絶叫マシーン感覚だ。空飛ぶ龍を遮るものがないから、ほぼ真っ直ぐに戦場の上に到着する。


「「うぎゃあああああああぁ!」」


 2人して悲鳴を上げながら戦場に下りたのもご愛嬌だが、騒ぎすぎて注目を浴びてしまった。急降下したコウコの所為……おかげ? で胃のあたりがぶわっとした。ジェットコースターが急降下したときに、胃の辺りの内臓が持ち上がるような浮遊感に襲われて、思わず叫んでいたのだ。


「びっくり……した。でも助かったよ。ありがとう、コウコ」


『主人が楽しんでくれてよかったわ』


 おそらく悪気はない。本気で、絶叫するほど楽しんでくれたと思っているらしい。龍の表情はわからないが、少し口元が緩んでる気がした。金色の瞳が周囲を睥睨すると、さすがに巨大な龍にケンカを売る北兵はいない。


 北の聖獣らしいから、赤龍コウコは有名なんだろう。ゆらゆらと浮いたまま大きな身体を揺らし、威嚇した状態で警戒してくれていた。そしてオレの後ろで、酔ってグロッキーなマークが潰れている。


 互角に近い戦力がぶつかる戦場は、膠着状態だった。どちらの兵力もほぼ同じ。北の国側はすべて正規兵らしい。4桁近い戦力同士の激突は、大河ドラマレベルの迫力があった。


「すげぇ」


「ボス、ほうけてないで指示をくれ」


 ジークに叱られてしまった。


「上から指示する。少し待って」


「遅いですよ、キヨ! 完全に遅刻です」


 シフェルの声にびくっとしたオレは、これ以上叱られるのを防ぐために動き出した。足元の影に向かって「ヒジリ、ブラウ」と呼びかける。飛び出したヒジリが女豹ポーズで伸びをした。隣でブラウは大きな欠伸をしている。


「敵の霍乱かくらんに動く。マークはジークの班と合流しろ」


「は、はい」


 なんとかゲロを耐えたマークがふらふらと傭兵部隊に合流するのを見送り、誰の背に乗ろうか迷う。乗りやすいのはヒジリか。


『主人はあたくしが乗せるわ』


『今回は任せる』


 ヒジリに譲られてしまったので、コウコの鱗に手をかけてよじ登る。最初から選択肢にのぼらないブラウが、旋風で北の兵を巻き上げていた。その合間を走りながら、黒豹が敵の連携を乱していく。動きやすいようオレをコウコに預けたらしい。

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