69.戦場に遅刻したオレは必死で挽回する(4)
「やだ、皆えらい」
『早くして、主人。あたくしの出番がなくなってしまうわ』
「あ、悪い」
主人のはずなのに叱られながら跨った。舞い上がったコウコの背から、戦場全体を手に取るように見渡せる。中央の国の勢いは強いが、全体的な人数だと北の国の方が多かった。まだ戦場に投入されていない余剰戦力すらある。
「コウコ、あの後ろの部隊を攻撃するから準備! ヒジリは前方から後ろへ敵を追い立ててくれ」
『主、僕は?』
「そのまま自由に北兵をやっつけてよし!」
適当に指示を出して、各聖獣のやり方に任せる。左側に展開する傭兵部隊が圧倒的な実力を振り翳し、一気に敵陣を切り崩していくが、突出し過ぎだった。このままだと豆腐に突き刺した箸みたいに、敵だらけの中で逃げ道を失う。
「ジャック、聞こえる? このままだと囲まれるから、もっと左右に広がって、全体に面で押すように戦ってくれ。侵攻スピードは遅れて構わない」
声は空気の振動で届くと知っている。だから指向性を持たせた風の筒を作って声を届けた。突然耳元でオレの声が聞こえたジャックが慌てて見回し、こちらに首をかしげる。だから頷いてもう一度念を押した。
「いい? 聖獣を使ってかき乱すから、こっちの損傷を減らして戦線維持に努めて」
「わかった」
ジャックの了承とサムズアップを確かめて手を振る。コウコは魔力を溜めて、口の中にブレスの準備をしていた。
「お待たせ、コウコ。やっちゃって! 出来るだけ派手にお願い」
ぶわーっと炎が敵陣を襲う。火炎放射器のようにまっすぐ飛んでいく火が、敵の頭上から降り注いだ。騒いで逃げ出す兵を見ながら、降下したコウコの背から飛び降りる。
『主人っ!?』
「大丈夫、後で迎えに来てね」
ひらひら手を振って、猫のようにくるんと丸まって着地する。高さはあるが、風を操れば足が痺れたりしないで下りられた。周囲は全員敵の状態で、腰のベルトから銃を抜く。
カチャ……撃鉄を上げる音がした左側へ銃口を向けた。右手でナイフの柄を握る。パニックになった敵兵は目の前の小さな敵より、自らの安全優先で逃げ惑っていた。頭上から襲い掛かる聖獣の炎や風の刃が、北の兵だけに襲い掛かる。
「このガキ、どこからき…っ」
正規兵とは思えない汚い言葉を途中で遮る。ナイフで切り裂いた喉が、ぱくぱく動いた後で血を吹き出した。倒れる男の姿に気付いた兵が数人オレを取り囲む。武器も魔法も使える状態で、あの地獄の訓練に比べたら生ぬるい戦場――負ける気はしなかった。
「ある程度挽回しないと帰れないからね」
緊張して強張るどころか、敵陣の中で笑みを浮かべる余裕すらあった。
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