70.イマイチ格好つかない戦果(1)

 右手のナイフを逆手に持ち返る。くるっと回して握る隙を狙って、剣が突き出された。切るんじゃなく突いたのは、さっきオレの動きが早かったからだろう。ナイフで喉を裂かれた男が倒れた場所から僅かに後ろ、死角になる場所だ。


 身を反らして避けると、続けてもう1回突いてくる。意外と腕も判断もいいな。避けながら感心したオレの足元に、巨大化した青猫が舞い降りた。


『主、無茶しすぎ』


 文句を言うブラウの顔が少し歪んでる。もしかして……?


「ブラウ、殴られたのか?」


『さっさと行けって、尻尾でね』


 この言葉でどちらが殴ったのか分かった。間違いなくコウコだ。空中で自由に走り回っていたブラウを掴まえて、尻尾で放り投げたのだろう。そういやコウコを掴まえたときに、執拗に尻尾を攻撃したのはブラウだった。やり返されたってことか。


 足元に絡みつくように近づいたブラウが背中を守ってくれる。一気に余裕ができたオレは、背筋がぞくっとする感覚に左側を振り返った。と同時に、指が動いて引き金を引く。


 考えるより早く魔力が流れるのがわかった。訓練で散々やらされた反復行為だ。引き金の指を魔力の操作と連動させれば、必ず銃弾には魔力が伴うのだ。魔力があれば必ず発生する結界を貫くために、銃弾に「しねぇ」の念ならぬ魔力を纏わせる必要があった。


 心臓や頭を狙わず、敵の肩を撃ちぬく。死人を作るより、大量のケガ人を作る方が有効なのは、この戦場でも同じだった。正規兵相手なら、この作戦は成功を収める。


「ヒジリ、シフェルにケガ人を沢山作るように説明しておいて」


『わかった』


 聖獣と契約していれば姿が見えなくても話ができる。これは影の中にいたときに気付いていたので、有効利用する。有線どころか無線いらずは、戦場で便利すぎた。そのうち携帯電話扱いされそうだ。


 倒れた男を引きずって下がる兵を確認すると、止血に1人、担ぐのに1人だった。1人やっつけると3人離脱は効果が高い。にやりと口元が笑みに歪んだ。


『ねえ主、顔が悪役みたいだよ』


「悪役上等! それよりブラウ。さっきは『オヤジにもぶたれたことないのに!』だろ。ちゃんとやらないと捨てるぞ」


 真面目に答えてどうする! ブラウはアニメ話の相手として契約したのに、そんなんじゃ契約を解除するからな。解除方法知らないけど……。


 抗議されたブラウが『主ってうざぁ』と呟いて、オレに蹴飛ばされた。

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