69.戦場に遅刻したオレは必死で挽回する(1)

「転移できない? なんで」


 一人だけ転移できない。とりあえず彼を下ろして、別の傭兵が乗ると転移する。つまり魔法陣は壊れていないのだが……困り顔のジークとオレ、楽しそうなレイルが残った。


 4人で魔法陣を睨みつける。


「早くしないと遅刻扱いだよな」


「ボス、おれらは置いてってくれ」


 ジークムンドの提案に呆れ顔で現実を突きつける。大柄でガタイのいい強面が、おたおたしていた。


「あのさ、置いていくじゃん? ジークの部隊が班長なしでちゃんと動くの、無理だよ。総指揮はオレだけど、脳みそだけ動いたって末端の神経が働かないと歩けないわけ。で、ジークを送るのは確定」


 泣きそうな顔の傭兵の尻を勢いよく叩く。


「お前も置いていくわけに行かないだろ。敵陣で2時間も1人じゃ死ぬし」


 置いていけば傭兵は間違いなく死ぬ。これから戦場へ2時間も歩いていけば、絶対に周囲を警戒している敵に見つかるだろう。その場合一人で戦って抜けられるか? オレは何とかなるが、まあ無理だな。気弱そうだし、なんで傭兵なんて職を選んだのやら。


 異世界人のオレの方が、よほど殺伐とした世界に馴染んじゃってる。


「それで、今回はどんな知恵で切り抜ける気だ?」


 興味津々のレイルが煙草を咥える。ほんのり甘い香りがする煙草をふかしながら、彼はわざわざしゃがんでオレに視線を合わせた。


「決まってるだろ。まずレイルが転移、次はジークだ。そこで魔法陣は燃やす」


「「はぁ?!」」


 ジークと傭兵がハモる。レイルは目を見開いたものの、煙草の煙を大きく吐き出しただけだった。前世界の煙草と違い、煙を吹きかけられても噎せないのは不思議だ。成分の違いかも。


「あれ? また使うなら魔法陣は回収するけど」


 燃やしちゃダメなのか。仕方ないから収納すればいいと前言撤回して、足元の影に声をかけた。


「コウコ、頼みがあるんだけど……」


『主人、契約した使役獣には命令するものよ』


 しゅるんと蛇サイズで出てきたコウコは足から上ってくる。ちょ、マジ気持ち悪いぞ。ぞくぞくするっていうか、肌が粟立つの表現はこういう場面で使うんだろう。ぞわっと鳥肌になるが、悲鳴は我慢した。


 これから頼み事をするので、機嫌を損ねたくない。


「オレとコイツを徒歩2時間の戦場まで送ると、どのくらいかかる?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る