342.人が減ると気持ちが沈む(2)

 明日から孤児院を回る予定だ。気合を入れないとな。リアと明日の夕食の約束をして別れた。官舎はノアが作る味噌汁の匂いが充満し、食欲を誘う。


「ただいま、うまそうじゃん」


「キヨ、手伝え」


 おかんノアに手を掴まれ、ハンバーグを模した肉を焼いた。粗挽きハンバーグと表現したらオシャレだが、何しろ粗挽き具合が半端ない。親指の爪くらいの塊肉がごろごろ入ってるのを、ひき肉で無理やり繋いだ。焼きながら転がしたらバラバラになってしまうのだ。ここでオレの結界の出番だ。


 イメージはアルミホイル、火を通すけど、ラップみたいに溶けない。丸めて包めば形も崩れない優れ物だった。両面しっかり焼いて、さらに蒸し焼きにした。完璧だ。


 ソースは醤油ベースで、少し酸味を加えたら砂糖を混ぜる。照り焼きっぽい感じだが、バルサミコ風に黒酢を入れたので、ドレッシング感が強かった。指を入れて味を見て、コクが足りないと眉を寄せる。日本で料理してなかったから、何が足りないかわからず諦めた。


「食材に感謝して、いただきます」


「「「「いただきます」」」」


 口を揃えて挨拶し、食べ始めて気付いた。この官舎、人が減って寂しい。前は建物が揺れるほどの大きな挨拶が返ってたよな。


「お、美味そうなもん食ってるな」


「ん? レイルも食べる?」


 大量に作りすぎたハンバーグを焼いている最中なので、お裾分けだ。焼いて保管すれば、いつでも食べられるし。数日後に孤児院の視察があるから土産にちょうどいい。


「人が減って寂しいんだろ」


 ハンバーグをフォークで崩して頬張るレイルの指摘に、強がる気もなく頷いた。ぐるりと見回した部屋は、かつて50人近い傭兵が一緒に生活していた食堂だ。じいやと聖獣を入れても10人前後じゃ空間が広すぎた。


「安心しろ、明日視察に行く孤児院から15人くらい調達できるぞ」


「……え? なんでオレより先に情報知ってるのさ」


 普通オーナーに先に連絡来るもんじゃね? 疑問に思い首を傾げると、レイルが大笑いした。


「そりゃ、キヨが忙しくて手が回らないからだろ。前に任せるって言ったじゃねえか」


「言ったっけ……」


 言ったかもな。戦とか騒動が立て続けに起きて、子どもの扱いに慣れたレイルに丸投げ、したかも知れない。まあ、オレの知識じゃ子育ては出来ないから助かったけど。


「もう卒院の奴がいるのか」


「入った年齢が上だったからな。これから小さい子が増えていくだろうさ。あとうちの組織からも10人くらいなら融通できるぞ」


「そんで皇族の情報を横流しするの?」


 ジト目を向けたら、むっとした顔をされた。


「身内は売らない主義だ。そもそも、うちの連中は横流しするような低レベルじゃねえ」


「ごめん、言葉が過ぎた。申し訳ない」


 素直に謝罪した。今のはオレが悪い。こういう叱ってくれる奴って貴重だから、レイルはオレにとって失えない友人なんだ。地位がどんどん上がるにつれて、オレを叱れる人は減っていくと思う。シフェルだって、いずれは従う側になってしまう。だからさ。


「ずっとこうやって叱ってくれよな、レイル」


「うわっ、きも……お前、変態かよ」


 くそ、オレの感動を返せ!!

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