17.教育は情熱だ!!(13)

 この国はリアムの祖父の代で4つの小国を統合した。まだ歴史が浅く、足元は磐石ではない。リアムの帝政は、いつ倒れてもおかしくないのだ。ましてやリアムに他の近親者がいなければ、リアム一人を討てば戦は終わる。


 ふと思い出したのは、無邪気な質問だった。リアムに謁見する前に、オレは何も知らずに聞いたのだ。どうして一番国力がある国が勝てないのか――シフェルの濁した答えがここにあった。


「オレは同情も共感も出来ないし、しない」


 顔を上げたリアムの手から滑り落ちる歴史書を拾い、新旧の境目を開く。口元に意図して笑みを。強張るな、引きつるな、キレイに笑ってみせろ。己に命じて顔を上げた。


「オレが気にかけるのは、手が届く奴らだけだ。だからリアムは死なないよ。オレが付いてるからね」


 ただでさえ大きな目が限界まで見開かれ、続いて泣きそうな顔で微笑まれた。今にも涙を零しそうな切ない顔なのに、口や目は笑おうとしている。その絶妙なバランスの上に成り立つ表情を――キレイだと思った。


 ただ、美しいと見惚れる。


「そうだな…俺が育てた、俺の騎士だ」


「叙勲式でもする?」


「考えておこう」


 礼儀作法や勉学だけでなく、魔法や常識にいたるまで……オレはリアムに力をもらった。戦う力でさえ、リアムが用意した教官と仲間に鍛えられたのだ。彼が育てたといっても過言ではない。


 与えられた力を好きに使っていいなら、オレはリアムを護るために使いたい。


「ずっとオレが護る」


 誓いはするりと口をついた。驚いた顔をしたリアムが「護ってくれ」と微笑むまで、オレはリアムの手を握っていた。


 背中の竜が身じろぎする。先ほどから落ち着きがないのは、どうやらじっとしているのに飽きたらしい。仕方なくぽんと背を叩いて合図してやれば、大きなソファ代わりの竜が一鳴きして移動を開始した。のそのそ歩いていく姿は、大きなトカゲそのものだ。


「気をつけろよ」


 竜に声をかけたそばから、足に薔薇が絡みついている。まあ千切って歩いていく様子から、たいしたことはないと見送った。


「お前に足りないのは実戦経験だけか」


「うーん、毎朝戦ってるからな」


 早朝からドンパチして騒がしい上、建物も派手に壊していた。最近は防音系の結界が張られるほど、早朝の訓練は宮廷内で知られている。昨日も侍女に揶揄られたくらいだ。


「本当に殺気を向けられると身が竦む。いつもお前の後ろには俺がいると思え」


 笑って心構えを伝えるリアムに素直に頷いた。

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