271.もう公表しちゃえ!!(3)

 異性には親切に、奥様や婚約者を大切に。さて、立派な標語ができたところで、周囲を見回す。問題ないかな。


 他に洗い出す貴族がいれば叩きのめそうと思ったけど、思ったよりいい子ちゃんが多いようだ。前回身分差で叩きのめして、夜会でもやっつけたからね。見ていた貴族はもう逆らおうと思ってないだろう。


 震えるおなら公爵に穏やかな笑みを向ける。なお、ヒジリが開けた穴はそのままキープだ。


「どうだろう、逆らってみる?」


「ひっ、ば、化け物がっ!! 近づくな」


「うわ、こっちみるな。来るなっ」


 どっちも酷いな。手下のはったり侯爵……ぺタリだっけ? まあ暴言の言葉尻を捉えるなら、彼らもこの中に落ちていただく必要があるか。見せしめは中途半端じゃない方がいいよね。


 もう皇帝陛下の婚約者だと発表したし……何かをネタに脅される心配もなかった。オレの親や実家は犠牲になりようがなくて、さらに婚約者は最強の権力者だ。周囲に優秀な側近も揃って、オレの未来は薔薇色だった。


 多少血の色が混じっても誤差だろう。


「ヒジリ、片付けちゃって」


『ふむ。主殿の命ならば』


 重々しく頷いたヒジリが視線を向けた先で、2人の足元にも穴が開いた。先ほどより大きな悲鳴と助けを求める声が聞こえ、最後に謝罪がドップラーして消えた。救急車の音が遠ざかるときのアレ、結構好きだったんだよね。懐かしく思いながらパチンと指を鳴らす。


 タイミングを図ったヒジリが穴を塞いだ。ちなみに、これはヒジリ達が使う影を模したただの転移魔法だ。応用と言ったらいいかな。すごく深い位置に作った魔法陣を通過すると、彼らは地下牢に転がり出る仕組み。ヒジリが使う影は、オレと契約した聖獣以外の生き物が入ると死ぬらしいから。


 シンに頼んだ仕掛けが無駄になりそう。使う場面がないまま終わりそうだが、今回の騒動を画策した真犯人との対峙で使うか。


「裁判長、お時間をありがとうございました」


「あ、う……は、はい」


 何も言えずに頷く裁判長は、手元の罪状を書かれた紙に目を落とす。これを読み上げて罰を言い渡す予定が、罪人が全て消えてしまった。この場で読むべきか、それとも読まずに閉廷すべきか。悩む裁判長にオレは笑顔で言い放った。


「せっかくですから、集まった紳士淑女の方々に罪の重さを理解していただいた方が良いでしょう。読み上げてください」


 半分強制的に罪の言い渡しが始まる。代替わりはもちろん、爵位降格や領地没収の厳しい沙汰が響く。貴族の青ざめていく顔を見ながら、オレは満面の笑みを振り撒き続けた。

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