232.梅干しは毒じゃない(3)
熟成させてるわけよ、鰹節も。強調しながら説明すると、ベルナルドも納得した。まだ収納へ放り込む前の鰹節をひとつ手に取り、齧ろうとする。
「か、硬いですな」
「うーん、削って食べるものだから。チーズも削ってかけるのと同じだよ。そう考えると鰹節は日本のチーズか」
全然違う。生産者でもある店主が微妙な顔をするが、オレは納得して鰹節の山を収納へ入れた。なお、足元でひとつくすねた青猫を叱っている間に、ヒジリが持ち逃げしたのは……気づいたけど見逃してしまった。
普段いい子のヒジリが我慢できないんだ。よほど魅力の匂いと味なんだろう。うんと頷く間に、鰹節とは思えない音がした。
ガリ、ボリ……バリムシャァ。
真ん中から噛み砕いた、だと!? 砕けた破片を拾って口に入れ、ご満悦のスノーがコウコにも手渡ししている。その横でマロンも拾ってカラコロと舌の上で転がした。
鰹節は飴じゃないんだが……まあいいか。さりげなく仲間に混じったマロンも嬉しそうだし。ジト目の青猫は放置だ。しかし非難する視線の強さに負けて、落ちていた欠片を口の中に押し込んでやった。もちろん噛まれたのは言うまでもない。
「牙食い込んだぞ」
『僕だけ主に差別された、差別された』
「差別じゃなくて、区別だ」
きりっと言い直したら何か叫んでたが、落ちていた残りの鰹節も押し込んで黙らせた。今はひたすらガリガリ音をさせながら齧っている。
「チーズとはだいぶ違いますが」
「うーん、国民食って意味では同じだろ。カビはやして美味しくするのも同じだし、削って食べるのもそっくりじゃん」
そう言われるとそんな気がする。複雑そうに反論を我慢するベルナルドだが、別に納豆食わせたわけじゃないし。そこまで反応するなよ。気高い某国のお貴族様かっての……あ、貴族だったわ。
「醤油、味噌、酒、鰹節に梅か……今回の遠征は収穫が多かった」
ほくほく顔のオレの手をブラウが齧る。鰹節食べ終わったのか? しょうがないやつだな。にっこり笑って血塗れの手で、カツオ梅を一握りブラウの口に入れた。
『ぐおぉおおお! 口が、口がぁあああ』
「そのネタはもうやった」
お前の被害がひどいみたいに見えるが、傷だらけの手で梅を掴んだオレの自爆もひどい。塩漬けだったんですよね、梅って。今頃自覚したオレは、じんじんと痛む手を掴んで涙目だった。
手がぁああああ、ってオレがやりたかった。
『……塩辛いな』
文句を言いながらもヒジリが治癒してくれたので、彼にもう1本鰹節を献上した。店主達の名前をメモして、オレはまた購入する約束をして店を出る。途端に周囲の店主達に取り囲まれた。
「うちにもいいのがある」
「うまいぞ、味見してくれ」
「これはどうだ?」
「独特の臭みがクセになる」
売り文句と同時に様々な食材を差し出される。呆れ顔のベルナルドに「お早く」と促されたこともあり、片っぱしから味を見ていく。ちなみに納豆はなかったが、和菓子の甘納豆と羊羹をゲットした。ここは大豆じゃなく、小豆系。メモが分厚くなった。
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