161.卑怯な手も躊躇わないぞ(3)
「聖獣殿……ヒジリ殿はなんとも触り心地が良くて、失礼を承知で手が出てしまう」
リアムが黒豹の耳の間から首にかけて何度も手を滑らせる。くそっ、ヒジリに教えておいてなんだが、かなり羨ましいぞ。オレも同じ姿勢で髪を撫でて欲しい。柔らかい膝の上に顎を乗せるとか、ご褒美以外の何物でもないな。
「キヨ……本音が顔に出てます」
シフェルが小さな声で注意したため、オレは慌てて口元をぬぐった。絶対によだれ出てたと思う。傭兵が消えた食堂は広くて、こそこそと話をするのに向かない気がした。
「部屋を移動するか?」
「このままで構いません。キヨの遮音結界を使えば、部屋は広い方が都合がいいですから」
言われて気づいた。狭い部屋だと隣の壁やドアの外に張りついた奴の姿が見えないから、聞き耳立てられたら危険という意味だろう。広い場所は誰かが潜んでいたり、近づいてくれば発見しやすい。まあ、遮音結界があれば夜会で注目浴びる場所でも平気だけどね。
それに広い場所でざわざわ雑談している姿を装えば、黒い相談してるように見えないし。イメージとして悪役が暗い部屋で月光を背に、ブランデー片手に語るシーンだよ。厨二のオレも多少の憧れはある。子供の外見じゃ似合わないけどね。
「それじゃあ作戦を話すから」
一斉に全員が机に乗り出した。カモフラージュを兼ねて、先日作った遊戯盤を中央に置く。この世界ってチェスはあったけど、オセロはなかった。個人的にチェスの駒を摘まんで「ふっ、愚かな」とやってみたいが、実はルールがわからない。仕方なく白黒のオセロを提供したところ、複写されて傭兵の間で人気が高まっていた。
手慰みにベルナルドと向かい合ってオセロを始める。思ったより強い。負けたらカッコ悪いと唸りながら、考え込むふりで彼らに作戦を教えていく。
手を出して助けるリアムに何かを耳打ちし、ベルナルド側から覗き込んで指で作戦変更を推奨するシフェル。呆れ顔で「大人げないわよ」と注意しながら、オレの味方についたクリスティーン。ウルスラは審判役をしながら、時々口をはさむ。オセロに興じる上位貴族の集団を装いながら、作戦と互いの役割を共有した。
「問題はゲームスタートの時間だけど」
「早い方がいいでしょう」
シフェルに促され、準備期間があるので2日後に設定した。決行のタイミングと使用する隠語の再確認を終えると、全員が顔を見合わせて頷く。問題点はないはずだ。何かあれば優秀な宰相ウルスラや腹黒公爵シフェルが何とかしてくれる。
「今失礼なことを考えませんでしたか?」
「そんなわけないじゃん。それよりオレの勝ちじゃない?!」
心を読まれたかと焦りながら埋まった盤の白い駒を数えていく。ぴったり引き分けとなったゲームの駒を片付けながら、オレは「引き分け……つまり負けと同じ」とぼやいた。初見のゲームでオレに勝つとか、ベルナルドが優秀すぎた。
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