130.赤毛の情報屋が、嘘だろ?(3)
「ふーん。もう一回断罪シーンをやらないとダメか」
「しばらく命を狙われると思いますので、シン殿もキヨも気を付けてくださいね」
「ああ、わかった」
すぐに了承するあたり、王太子の肩書は伊達じゃなかった。いつも狙われてるのかよ。普通は命狙われてますと宣言されて、すぐに「わかった」とか言えない。
ヒジリが尻尾を振って、近づいた薔薇の蔓を追い払った。横でパチンと猫パンチを繰り出す青猫は、飛んでくる蔓と遊んでいる。楽しそうだな、おい。
お茶のポットに手を伸ばしたシフェルがお湯を注いでカップに分けていくのをぼんやり見つめ、一番最初に口をつけた。この場にいるのは毒見が必要な連中ばっかりだ。そう考えたオレが一口飲み干したのを見て、レイルが頭を抱える。
「お前さ、この場で毒見役はおれかシフェルだから」
「え? オレじゃなくて?」
異世界人で毒が効きにくくて、聖獣と契約してるから解毒してもらえるオレじゃないの!? 思わず叫んだ途端、リアムが笑い出した。
「そういえば、余の毒見役と護衛を兼ねていたな」
そんな設定すっかり忘れてた。シフェルが苦笑いしながら尋ねる。
「問題なさそうですね」
「うん、痺れないし苦しくない」
「毒ではありません。シン殿との関係です」
毒見した直後に聞かれたら、毒の有無だと思うよな? そう思いながら首をかしげると、シンは笑いながら「まだ兄と呼んでもらえない」と愚痴った。
「え? シンは兄さんと呼んで欲しい人?」
今まで王太子殿下と呼称してきた相手に、いきなりお兄さんと呼びかけたら失礼かと気を使った結果なんだけど。シン呼びはアウトか。
つんつんと隣から袖を引くリアムを振り返れば、きらきらと青い目を輝かせていた。この場でもっとも権威のある最高権力者様は、無邪気にのたまう。
「セイが、シン殿と同じ民族衣装を着たところが見たい」
「いいよ」
どんな無理難題を吹っ掛けられるのかと心配したけど、思ったより無邪気で簡単なお願いだった。あっさり頷くと、シンも立ち上がりかけて膝をついた状態で「いいのか?」と念押ししてくる。
『我も見たい!』
『あたくしも』
『暗い赤とか似合いそうです』
ヒジリ、コウコ、スノーも賛同した。いいけどね、着替えるくらい……七五三姿になっても笑うなよ? 多分似合わないから……そういえば、1匹静かだな。この騒動に我関せずの青猫を探せば、ブラウは薔薇と猫パンチ合戦を繰り広げていた。
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