49.新たな危険の火種(2)

『主ぃ~』


 情けない声で助けを求めるブラウの尻尾が、ヒジリの口の中に消えている。どうやら奥歯で噛まれたらしく、時々悲鳴が上がった。


「お前ら、仲良くしろよ」


『……命令なら仕方ない』


 ようやくヒジリが、ブラウを解放した。飛んで逃げるブラウはさすが猫、オレの膝の上に飛び乗ってくる。ここが一番安全だと知っているのだ。


「ブラウ、痺れるから降りろ」


『お慈悲を~、主ぃ』


「痛い、重い!」


 下ろそうとするオレと、爪を立ててしがみつくブラウのやり取りに、リアムが笑い出した。向かいでシフェルも笑っている。


「それにしても、青猫の聖獣殿も西の国にいたのですね」


『黒豹……っと、ヒジリがいなくなったからね』


『勝手に我の名を呼ぶな』


 再び追いかけっこを始めたブラウとヒジリを放置して、オレは茶菓子をひとつ手に取った。スコーンに似た焼き菓子を二つに割って、クリームを塗って一口。残った半分を隣へ差し出す。


「リアム、あーん」


 ぱくっと素直に食べたリアムが残りを手にとって、自分で食べ始めた。竜の番は給餌行為が好きだと聞いたが、確かに気付くとリアムに食べさせようとしている。だとしたら同じ竜のシフェルも? 問いかけるオレの視線を、彼は平然と無視した。


「士気が高まっている今、西の自治領と北の国を同時に落とします。陛下の裁可を賜りたく存じます」


「任せる」


 あっさりと目の前で次の戦争が決まった。この世界に来てから戦争ばかりだ。戦時中だから当然だが、すべての国を征服すれば戦争は終わるんだろうか。


「あのさ……西が終わって北を落として、その後は東や南とも戦うのか?」


「キヨ、あなたは実感がないでしょうが……この国は四方を敵に囲まれているのです。こちらが争わずとも、敵国が攻め込んできました。豊かな中央は常に狙われます。それは今も、昔も……」


 戦いたくて他国を踏み躙るのではない。攻められて受けただけだった。だが攻勢に転じなければならないタイミングというものがある。ずっと防戦一方では、いつか打ち破られる。いずれ不満が高まった貴族や国民も騒ぎ出すのだから。


 そのタイミングが――オレだった。異世界人の肩書きを持つ戦力が現れたことで、機運が熟したのだ。大きな戦力である中央の国が銃なら、突然振って沸いたオレは銃弾だった。弾が補填されたため、シフェルはトリガーを引いたに過ぎない。

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