49.新たな危険の火種(3)

「わかってる。オレだって戦争が悪いとか、戦いたくないなんて我が侭は言わないさ」


 初めての恋と、愛しい存在。爪まで丁寧に整えられた白い手がオレに触れる。絡めて握るリアムの手が、オレの気持ちを後押ししてくれた。


 彼女を失いたくなければ、戦うしかないのだ。西の国の王族のように、負ければリアムの首がねられるのだから。


 その未来が嫌ならば、自ら切り開けばいい。


「セイは戦いのない世界から来たのだったな」


 複雑そうな顔で呟くリアムの蒼い瞳が揺れる。心配させてしまったらしい。笑ってリアムの黒髪を撫でた。頬が自然と緩んでくる。


「リアムのためなら戦うぞ。もうこの世界の住人だもんな」


 一緒に生きていくから大丈夫だと告げたら、嬉しそうに微笑んでくれた。この可愛い笑顔を守るためなら、頑張れると思う。血塗れになろうが、多少痛かろうが構わなかった。


「戦争を続けるなら話しておくけど、この国にまだ裏切り者がいるぞ。内通者っていうのかな。スレヴィじゃないはずだ」


 まだ危険は去っていないと言い切った。根拠はオレのカンじゃなく、レイルの反応だ。内通者がいる可能性を告げたオレに対し、彼は明らかにいつもと違う反応をした。


「……内通者、ですか?」


「そう。西の自治領に送られたとき、すぐに回収部隊が来た。飲み込んだ泥を吐いた直後だったな。ほぼピンポイントでオレの居場所を知ってるのは、なぜか。その日の夜に暗殺者が1人。明け方に退けたら、直後にまた1人……早すぎるんだ」


 手を打つのが早すぎる。


「オレが沼に飲まれてからの対応、もしかして『皇帝陛下』が誘拐されたことにしただろ」


 情報操作をして皇帝が攫われたと吹聴しなかったか? そんな疑問に、リアムは申し訳なさそうに俯き、シフェルはにっこり笑った。間違いない。オレはリアムの身代わりとして、囮にされたのだ。怒りは感じなくて、逆に冷静になった。


 シフェルの機転で攫われたのが皇帝となっていたから、オレは西の自治領でいきなり殺されずに済んだ。そういうことだ。陛下の代わりに騎士や護衛が連れ去られたと知られたら、人質として価値のないオレはその場で処分されただろう。


「助けられたのかな?」


「助けたつもりはありません。情報かく乱作戦ですから」


 恩に着る必要はないと言い切ったシフェルに、オレは肘をついて笑みを返した。いつの間にか足元で丸くなったブラウとヒジリが一緒に眠っている。いがみ合ってるかと思えば、意外と仲がいいのだ。


「おかげで暗殺者が来たけどな」


 国外で皇帝を殺害することができれば、西の自治領にすべての責任を押し付けて戦争の理由にできる。しかも皇家の直系が途絶える、というおまけ付きだった。

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