95.ミルク粥が異世界に爆誕(2)

「「「「いただきます」」」」


 いつの間にか真似するようになった挨拶があちこちから聞こえ、同じようにミルク煮に塩を足す傭兵の姿に苦笑いした。やっぱ肉体労働者には塩分足りないよ、これ。


 3口目を食べたところで気づいた。乾パンがない。


「ノア、乾パン抜いた?」


 よそってくれたオカンに尋ねると、向かいに座ったノアは首を左右に振った。


「いや、ちゃんと混ぜて分けたぞ」


 信用できるノアの真面目さに頷きながら、スプーンで中をかき回す。行儀が悪いが、最後の味見を怠ったので鍋の中を知らないオレは、よそう前の状態を知らないのだ。よそう前にドロドロだったとすると、このは牛乳成分じゃなくて……溶けた乾パン?


 これは……ミルク粥ってやつ。海外だとオートミールやリゾット系のあれだ。


「キヨ、乾パンどうした?」


「やっぱそう思うよな。多分溶けてる」


 製造過程をずっと見てたわけじゃないので、実際の状況は不明だが間違いなさそう。ミルクにつけると柔らかくなるのは知ってたけど、ここまで溶けるとは……成分は何だろう? オレが知ってる乾パンとやっぱり違う。


「このどろどろが溶けた乾パンだってのか?」


「うん、ミルク粥状態だな」


 記憶するように「ミルク粥」と数人が繰り返した。この世界にミルク粥を広めた先駆者! ってなりそうな予感。まあ黒酢炒めしてるから今更なんだけど。個人的には味噌炒めをご所望だ。


「ミルク粥ってすごいな」


「乾パンは顎が痛くなるからな」


「確かに疲れる」


 笑いながら食べる傭兵から不満が出ないのは、硬さで顎が疲れる食べ物よりマシって意味だろう。噛み応えがないが、肉があるから補えてる感じだ。腹にどろっと隙間なく詰まる食事は病人食っぽいが、傭兵連中は食べられれば文句言わない主義らしい。


 非常食として必ず持参する乾パンなので、今後も最後の日の朝食や昼食として役立ちそうなメニューだった。ほら、あれだ。帰還前の合図っていうか……金曜日のカレー的な感じ。


「お前の部隊に捕まると、食事は豪勢だよな」


 レイルが苦笑いしながら指さす先で、捕虜にもミルク煮が振る舞われていた。どろどろの白い液体に首をかしげる姿から、どうやら北の国にお粥系の食べ物はないと知る。行儀が悪いが器を手に近づいて、目の前で食べながら声をかけた。


 オレが食べてれば多少は安心するだろ。知らない食べ物って怖いからな。

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