183.仕方ないので王都侵攻(3)
「指揮官不在の兵が投降した場合、オレに何か義務が生じる?」
「捕虜として確保だろ」
「面倒だな、食料もタダじゃないんだから」
文句を言いながらも頷く。捕まえちゃった以上は仕方なかった。夏のカブトムシと同じだ。捕まえたなら放すか、そのまま飼う選択肢しかない。
「お偉いさんはどうやってここに来るのかな。貴族だから新しい魔法陣持ってたり、しないよな〜。あれ高いもん。それじゃあ馬で?」
「魔法陣はまずない。馬も……どうだ? あいつら、長距離乗れるのか」
レイルが失礼な評価をしたが、兵士達は苦笑いして顔を見合わせるから、どうやら長時間は無理だと考えたらしい。部下にそこまで酷評される上司もどうだろう。
「兵士がいっそ裏切ってこっちについてくれたら、オレの手間は減るのかな」
「寝首かかれないといいがな」
「それはないだろ。毎朝、殺意向けられて銃をぶっ放しながら起きてんだから」
けらけら笑うオレの言葉に、兵士が青ざめる。聖獣を操る淡い金髪の美少年の置かれた環境に、同情の眼差しが向けられた。そう、忘れられがちだが、オレは外見12歳のぴちぴち美少年だから! ブラウがいたら「ぴちぴちは古い」と突っ込まれそうだが、心の声なので大丈夫。
「銃抜く前に突きつけてやんよ」
ぼそっと呟いた瞬間に、気づいた。大軍の一番後ろに指揮官がいたら、頭の方で到着した連中の統率はどうしてた? だって、指揮官は後ろでお飾りなんだよな……ん?
「レイル、お飾りが後ろにいても前にいても、実際に指揮を執る奴が必要じゃないか?」
いいところに気づいたじゃないか。そう言いたげな彼の視線に、にやりと笑って『独り言』を続けた。
「オレなら先頭に使える奴を置く。つまり到着した兵士の中に本当の指揮官がいる!」
真実はいつも一つじゃないと思うが、まあ事実はひとつなわけ。起きた出来事は一つしかない。ぐるりと見回して、誰か名乗り出てくれないかと期待を込めて待つ。
「……誰も出てこないなら、一人ずつ拷問してみる?」
ずいっとヒジリが前に出た。コウコもちろちろと炎を吐き出しながら、10m級アナコンダサイズになる。聖獣の拷問、というより猛獣による甚振りを想像した兵士がざわついた。
それでも前に突き出そうとしない辺り、指揮官はよほど人望があるのだ。
「俺だ。だから部下に手を出さないでくれ」
名乗り出たのは、意外と若い人物で驚く。人のことは言えないが、18歳前後の青年は筋肉の鎧でごつごつだった。腹筋は絶対に6つに割れてるタイプ、もしかしたら8つかも知れない。細マッチョじゃなく、ゴリゴリのマッチョだった。
「指揮官より突撃隊長じゃね?」
ぼそっと呟いてしまった。彼は聞こえたようで肩を竦めて「まあな、性格的に突撃は向いてる」と返す。
「王都へ突撃してみない?」
「はぁ? お前の脳みそどうなってんだよ」
レイルが素っ頓狂な声をあげ、傭兵達も笑い飛ばした。突然の提案に、南の兵士達も顔を見合わせる。オレはじっと指揮官だと名乗り出た青年と見つめ合っていた。
「どう?」
「リシャールだ。いいだろう、その代わり国王の首は俺がもらうぞ」
何やら複雑な裏事情がありそうなキャラ、きたぁ!!!!
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