250.砦でサプライズ(3)

「……セイ、余は嬉しい! セイは余のことを忘れていなかった」


「忘れるわけないだろ」


 美形設定の顔を最大限に活用して微笑むが、いま聞こえた奇妙な言い回しに引っかかった。まるで誰かに、オレがリアムを忘れて遊び歩いてるように言われたみたいだ。人目があるので、移動を申し出る。


 料理の時間も迫ってるし、この際料理しながら話を聞こう。片手間は失礼だって? そんなことないさ。リアムは初めての野営料理に興味津々だし。前もオレが料理するときに見たがっったからね。


 後ろにクリスティーンが控えてるのは、護衛役だろう。中庭の北側に設置したかまどを興味深そうに眺めたリアムは、周囲を見回した。


「黒豹殿はどうなさった?」


「ヒジリ? 呼ぼうか?」


「呼ぶほどの用はないのだが」


 まだ人目があるから硬い口調だ。はやく「私」と言わせてあげたい。可愛いドレスで化粧して、好きな恰好を心置きなく楽しんで欲しい。土産を思い出すが、この場所で化粧品を渡すのは問題が発生しそう。


「土産があるけど……後でいい?」


 理由を示すために視線をぐるりと周囲に向ければ、くすくす笑うリアムが頷いた。ちゃんと伝わってくれたみたい。


 コウコがいないので自分で火をつける。スノーが乾燥させた薪を放り込み、鍋に水を張っていた。野菜炒めの予定だったんだが……まあいいか。スープもあった方が食べやすいし。


「セイ、あの鍋は何を作るのだ?」


「うん、どれ……」


 隣でこっそりジークムンドが揚げ物鍋を火にかけていた。リアムの目に止まってしまったからには、嘘はつけない。変なところだけ知恵の回る連中だ。


「あ、揚げ物用だね」


「どんな料理だ?」


 この瞬間、唐揚げ作りが決まった。いろいろ考えて、黒酢餡かけの野菜炒めに変更する。ヒジリが留守なので、怠けたがる青猫に狩りを命じた。その肉を唐揚げにして、黒酢餡かけに投入予定。


 オレが希望した野菜炒め、リアムとジーク達が食べたい唐揚げ、リアムがまだ知らない酢豚が混じった料理だ。唐揚げを積んだタワーに、魔法で上から餡かけしてやんぜ。


 オレは気合を入れ直し、調理に取り掛かった。後になって思えば、リアムはどこかで唐揚げの話を仕入れてたんじゃないか? 素直に食べたいと言えないあたり、ヤバい……可愛すぎるんじゃね?

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