250.砦でサプライズ(2)
「字が書ければ、仕事……ありますか」
「あるよ。オレの周辺だけでも、余るほど仕事はある」
恐る恐る尋ねる若者に、現状を正しく伝える。実際、傭兵が住む官舎だって、文字の読み書きができれば数人欲しい。運動神経が良ければ騎士や兵士、頭がいい奴は文官の道だってあるだろう。生まれや育ちで差別する慣習は、オレが終わらせる予定だしね。
これは聖獣に分割された神様にも協力をお願いする予定だ。
「キヨ、飯ぃ」
「オレは飯じゃないっ!!」
失礼な呼びかけの傭兵に怒鳴り返し、食材を倉庫から引っ張り出す。この砦はすでに新しい兵士が補充されているため、正規兵が砦の部屋を占拠していた。
オレやベルナルドはともかく、傭兵と奴隷は外だろう。テントの準備をしなくちゃ。かなり急ぎで歩かせたから、奴隷達を休ませて出発は明日以降になる。このまま大急ぎで向かえば、明後日の昼前には着くな。
顔がにやけてしまう。リアムに会ったら、やっぱり抱きついていいんだろうか。皇帝陛下だけどオレの未来の嫁だし、あ……でも人目がある場所では理知的にカッコよく振る舞って、部屋に入って後ろ手に扉を閉めた瞬間、抱き着くのも――アリだ。それでいこう。
ぐっと拳を固め、入念に練った計画を頭に叩き込む。顔を合わせても理知的に、英雄像を崩さないよう振る舞う……よし、これならリアムも惚れ直すに違いない!!
「キヨ、おい」
「あんだよ、うっせぇ……じゃ…………はぁああああ?!」
邪魔するなと続くはずだった言葉は、素っ頓狂な声に変わった。振り返った先で、にこやかに兵士や傭兵に手を振るお姫様。いや皇帝陛下がいた。
「リアム?!」
「セイ! あまり遅いから迎えに来たぞ」
男装姿で凛々しく微笑むその姿――尊い。キュン死しそうだぞ。オレがやりたかったイケてる役を、まさか婚約者に演じられてしまうとは。
駆け寄って近くに存在を確認したらもうダメ。さっき考えてた段取りが一瞬で吹き飛んだ。たぶん、中央の宮殿で会っても同じだろう。カッコいいオレの幻想、さようなら。魅力的で美人で半端なくイケてる婚約者さま、いらっしゃい。
崩壊した顔面を隠すように、リアムを引き寄せて、彼を腕に抱き締めた。本当は胸に顔を埋めたかったけど、後で殺されそうだし。身長差でもオレの方が僅かに勝ってるから、ここは抱き寄せる役をやらせて欲しい。
すっと黒髪から良い香りがして、自分が汗臭くないか気になった。今の触れてる状態で浄化していいの? 一緒に浄化したら、この良い匂いが消えるよね。えっと……混乱しながらリアムの顔を覗き込む。
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