250.砦でサプライズ(1)

 酢豚作って、夜も酢豚作って、翌朝から揚げを作った。何この揚げ物オンパレード。食べ物による胸焼け以外のトラブルはなく、一行は無事に国境近くの砦まで戻ってきた。


 ちなみに揚げ物で胸焼けしたのはオレとマロン、スノー、元奴隷の一部のみ。スノーは果物派だし、マロンは人間の姿で食べたのがいけなかったらしい。元の馬に戻ったらけろりとしていた。もちろん元気なら働け、でオレを乗せて運んでもらったさ。


 馬の揺れって、地味に尻痛いよな。


「お昼は野菜炒め、夜は鍋にする!」


 ここは譲らんぞ。指を立ててそう宣言したところ、反対意見はなかった。ほっとしながら、砦の中庭にかまどを作る。砦は中央の国の領地だし、かまどは今後も使えるよう端に並べておいた。オレは気が利いて、出来る上司だ。


「ヒジリとコウコは?」


 まだ追いついてこない。死体を清めるのにどれだけかかってるんだ、あいつら。ペットと違って、聖獣だから自力で戻ってこられるし。


 奴隷だった人は皆、遠慮深い。表現を柔らかくするのは日本人の美徳だが……正直、いらっとするほど遠慮続きだった。ご飯の順番、寝る場所、歩く位置、温厚な日本人でも、さすがにキレるぞ。


 一箇所に集めて、言い聞かせることにした。今後もこの調子じゃ、孤児院に預けても大変だろう。大人もいるんだから、聞き分けて欲しい。


「君達はもう奴隷じゃない。これから行く孤児院で、マナーや常識を覚えるんだ。仕事も斡旋するから、自分で働いて暮らしていく。わかる?」


「捨てるのですか」


「無理です、奴隷は一生奴隷です」


「ご飯と住むところがなくなるの?」


 不安の源はこれか。奴隷は扱いが過酷でも、耐えていれば食事がでる。どんなに寒くても暑くても、寝る場所が与えられた。最低の環境でも生きていくことは出来たのだ。それが放り出されて自由にしろと言われても、混乱するだろう。


 捨てられたと思うのも無理はないが。


「ちゃんと話を聞け。いいか? 働いてご飯をもらうのは出来るんだから、これからは働いたらお金を貰うんだ。そのお金で好きな物を買っていい。ご飯も、服も、装飾品だって自由だ。住むところだって、選べるようになる」


 最後の手段で、宮殿で雇う手もあるんだ。これはオレのツテを利用する形だけど、下働きなら仕事はいくらでも用意できる。ただ賃金が安いから、読み書きを覚えて出世して欲しいんだけどね。


「僕、字が読めるようになりたい」


 小さな獣人の子が手を挙げた。興奮した様子で話す夢に、オレは笑顔で頷く。


「もちろんだ。勉強できる環境を用意する」


 やはり順応力が高いのは若い順か。子供は素直に環境の変化を喜び受け入れるけど、歳を食うほど恐怖心が先に立つみたい。この辺は連れて行ってから解すしかないな。

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