153.躾はしておいたぞ?(2)

 食い散らかすという表現がぴったりだ。


 食べ終えて皿が空にならないとお代わりできないシステムのため、きっちりスープを飲み干して取りに行く。以前に皿に残ったままお代わりした奴の腕を、オレが撃ち抜いた。あれはいい手本になったな。おかげで誰も逆らわなくなった。


「エミリアス辺境伯は、料理もなさるのですか?」


「うん? 呼びにくいからキヨでいいよ。料理もするし、掃除もする。ここでは地位も役職も関係なく、当番制だからね」


 近衛兵に答えながら、リアムの口にスープの魚を運んだ。骨を抜く作業に魔法が使えると知ってから、時間短縮になって助かっている。まさに魔法万歳だが、やって見せたら他の料理当番が驚いて腰抜かした。


 魔法は彼らにとって万能ではなく、何かの補助程度の感覚らしい。オレにしてみたらマッチやライターなしで火がつくだけでも、十分凄いのだが。せっかく使える能力なら便利に使いたいじゃないか。


 勿体無い――そういえば、この言葉もきちんと翻訳されずに首をかしげられた。食べ物を残した奴に言った時は理解されたため、違う単語に変換された可能性が高い。自動翻訳の中の人が大変そう。


「あーん」


 素直に白身魚を口にするリアムに、近衛兵は驚いて大口を開け、シフェルが頭を抱えた。そして後ろからオレが殴られる。


「ちょっ! なんだよ!!」


「この場で見たことは忘れなさい。いいですね? 命令です」


 部下にきっちり言い聞かせ、頷くのを確認してからオレに向き直る。突然殴られた頭は、立派なコブが出来ていた。眦に涙浮かぶくらい痛かったぞ。


 抗議の意味を込めて睨むと、殺気のこもった目で睨み返された。しばらく互いに動かなかったが、先に目を逸らしたのはオレだ。睨み合いに勝ったシフェルが、ぐいっとオレの耳を掴んで小声で言い聞かせた。


「皇帝陛下に食べさせる行為は禁止です。わかりましたか」


「はい、ごめんなさい。調子に乗りました」


 言われて理解した。そうだ、リアムが女の子の姿なら問題ないが、外では男で通している。なのに竜属性の給餌行為を行えば、番だとバレてしまう。というか、多分バレた。


 リアムの身を危険に晒す行いを素直に謝罪した。オレに獣耳があれば、ぺたんと萎れていただろう。隣で野菜と肉が挟まったパンを齧るリアムが、申し訳なさそうに眉尻をさげる。


「余も調子に乗った。久しぶりに大勢で食事をしたので、ハメを外し過ぎた。あまりセイを叱らないでやってくれ」


「承知いたしました」


 きっちりと上下関係を示すシフェルの姿に、普段の軽口を叩き合う態度は微塵も見られない。こういう部分で負けていた。外見に引きずられたとしても、子供返りしてようと、もう少し大人の振る舞いが出来なきゃダメだ。オレはリアムを守り抜きたいんだから。


 バランスよく盛られた食事を終えたヒジリが、慰めるように膝に顎を乗せる。苦笑いして彼の頭を撫でた。こうして甘やかされてるようじゃ、まだまだだな。

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